ブッダとの出会い

坂本梧朗

Ⅰ ブッダのことば――スッタニパータ

その1 はじめに

 これから掲げていく「ブッダのことば」は岩波文庫『ブッダのことば――スッタニパータ』(中村元訳 一九八四年改訳版)よりの抄出である。

 中村氏の解説によれば、『スッタニパータ』の「スッタ」とは「たていと」「経」の意味であり、「ニパータ」は集成の意味である。以下、『スッタニパータ』に関する中村氏の解説を引用すれば、「現代の学問的研究の示すところによると、仏教の多数の諸聖典のうちでも、最も古いものであり、歴史的人物としてのゴータマ・ブッダ(釈尊)のことばに最も近い詩句を集成した一つの聖典である。シナ、日本の仏教には殆ど知られなかったが、学問的には極めて重要である。これによって、われわれはゴータマ・ブッダその人あるいは最初期の仏教に近づき得る一つの通路をもつからである。」さらに「歴史的人物としてのゴータマ・ブッダに最も近いものであり、文献としてはこれ以上さかのぼることができない。仏教の起源をたずねるためには、他のどの経典よりも重要であると考えられる」とある。

 ゴータマ・ブッダの逝去(北方の伝説によると、西紀前三八三年頃になる)の後、仏弟子たちは何回か結集し、かつて聴いたブッダの説法を述べ合い、確認し合って、最も正確なブッダのことばを確立しようとした。それらは暗誦の便をはかって、韻文の詩、あるいは簡潔なかたちにまとめられた。これが『スッタニパータ』の段階であり、多数の詩のうちには、あるいはゴータマ・ブッダ自身がつくったものも含まれているのではないか、と考えられる。

 仏典の成立過程について、参考として中村氏が解説の中で示している表を掲げる。(文末参照)

 『スッタニパータ』の詩句は表の諸段階のうちで、第一の段階に属するもののうちでも最も古いものである。また散文の説明は第二の段階に属するものである。岩波文庫の翻訳には、詩句には通し番号が打ってあり、散文には打ってない。この抄出ではそのままに引用する。詩の部分はアショーカ王以前につくられており、散文の部分は西紀前二五○~一五○年にはほぼ現形のようにまとめられたと考えられる。

 『スッタニパータ』は五章から成っているが、まず第四章から抄出していくことにする。第四章、第五章は、『スッタニパータ』の中でも最も古く成立したと考えられている。

 この抄出によらずともテキストは文庫本として書店にあるので興味のある方は買い求められたい。


 私がこの書に接して十年ほどになる。帰郷して一、二年経た頃だったが、強い感銘を受けた。その後、遠ざかっていた時期もあったが、この書に対する敬重の念は消えることはなかった。私の仏教に対する認識を正してくれた書である。この一、二年、再び手に取って読み始めた。そしてこの書の中のブッダのことばに随分導かれ、支えられてきた。またこのことばを軸として、人間、社会、文化、文明に関して種々の事を考えてもきた。それらの考えはエッセーとして述べていきたい。  




 ゴータマ・ブッダの説法(北方伝説によると西紀前約四二八―三八三年)


Ⅰ 韻文または簡潔な文句でまとめられた

          ↓

Ⅱ 散文で説明された(アショーカ王時代 西紀前二六八―二三二年)

          ↓

Ⅲ 経典としてまとめられた

          ↓

Ⅳ 三蔵[経・律・論]の成立

      ↓          ↓

Ⅴ 現存パーリー語三蔵   サンスクリットに翻訳された

                   ↓

              漢訳された(西歴紀元後)


           ↓

Ⅵ 大乗経典の成立

↓          ↓

     漢訳された      チベット訳された

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