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『ダウンロードは完了しています。[TheTower]を起動しますか?』


ああ、頼む。来客があったら知らせてくれ。


『了解しました。では、VRシステム起動します。』


このVRの世界に入る時の意識が遠くなる感覚は昔から変わらないな。




「[TheTower]へようこそ。」


目の前にいるのは青い光の玉。そしてここは何もない白い空間。体は......普通に動く。ふむ、俺が遊んでいた時代の物と比べてもあれだが、後輩の持っていた物と比べても体の感覚が全然違うな。


「[TheTower]へようこそ。」


軽く辺りを見渡してみたが何もないな。チュートリアル空間というやつだろう。


「あのー、こちらに反応していただいてもよろしいですか?」


ん?すまんな。無視していた訳ではないんだが。昔と比べると体の感覚が違いすぎていたから、ちょっと驚いてな。


「そういうことでしたら、この[TheTower]は凄く楽しんでいただけると思いますよ。」


そうか、それは楽しみだ。


「では、改めまして。[TheTower]へようこそ。私はサポートAIのセイランと申します。」


セイランか。よろしく頼む。.........それにしても、受け答えが自然だ。最近の人工知能は凄いな。


「まず、初めに[TheTower]の世界について説明させてもらいます。必要ない場合は省略することもできますが、どうされますか?」


世界観の説明か.......そうだな、簡単にお願いしてもいいか。


「わかりました。では簡単に説明させていただきます。」


言ってみるもんだな。


「[TheTower]その名の通りこの世界は塔の中の世界です。塔は地上50階層、地下50階層そして中間層が1階層の全部で101階層で構成されていて、階層ごとにそれぞれの世界が広がり様々な種族が暮らしています。プレイヤーが何をするかは自由、冒険、商売、農業、漁業等々好きなことをして遊んでください。.....簡単だとこんな感じですが、大丈夫ですか?」


OKだ。ざっくりだが理解はできた。あとはプレイしながら学んでいくとしよう。


「では、前置きは終わりましたので、お待ちかねのキャラデザインタイムに移りましょう。」


なんだか楽しそうだな。


「ええ、このキャラデザインの時間が大好きなんです。人の趣味や嗜好を勉強するのにこれ以上のものはありませんから。」


人工知能にそういう趣味があるのは驚きだな。


「そんなことより、早速いきましょう。最初は見た目です。」


目の前に、俺と同じ見た目の人間とウィンドウが現れた。.....朝、顔を洗う時に見たまんまの姿だ。寝ぐせと無精ひげまで再現されるのか、無駄に凄い技術だ。


さて、最近の技術に感動していても進まないな、ウィンドウの項目と数値をいじって見た目を変えていくのだろう。


「その通りです。注意事項になりますが、現実の体から体型を大きく変更することはできません。あと、性別の変更も不可能です。アドバイスとしては種族を決めてから他を設定したほうがいいですよ。」


わかった。アドバイス感謝する。


では、アドバイス通り種族から決めていくか。ヒューマンにエルフ、ドワーフ、獣人に魔族に天使まだまだあるな、それぞれ特徴があるんだろうが全部を確認していくのは面倒だな。そういえばプレミアム版で追加される種族があるんだったよな。どれだ?


「吸血鬼と鬼人、ヒューマノイドですね。ですが、この3種は条件さえそろえば後から選ぶことができるようになります。」


なるほど......むーーーー。決めた。ヒューマンだ。


「特典にある種族を選んでいませんがよろしいのですか?」


ああ、大丈夫だ。それに、容姿もこのままでいい。


「あまりお勧めできません。防犯等の点から容姿の変更は推奨されています。」


忠告はありがたいが俺のやりたいことは表に出ることではないからな。気にしなくても大丈夫だ。


「わかりました。この空間にいる間は変更が可能なのでその気になったら仰ってください。」


ああ、その時はお願いしよう。


「では、[TheTower]で生きる上での一番大事な職業を決めてしまいましょう。」


またウィンドウが現れたな。戦士、魔法使い、狩人、神官、薬師、錬金術師、商人、盗賊、冒険者まだあるな。ゴロゴロダラダラするにはどれがいいのだろうか?


「ゴロゴロですか?もしかして容姿を変更しないのも現実の感覚でゴロゴロしたいからですか?」


そうだ。何かお勧めはあるか?


「やろうと思えばすべての職でも可能ですが一部の職を除いてお金を稼ぐ術がなければ無理ですよ。」

              

自由を得るためにはお金がかかる。先立つものがなければ何もできないのは現実と同じか。だが、一部の職を除いてと言っていたな。


「ダンジョンマスターです。この職業はリスクと制限があります。」


詳しく教えてくれ。


「ダンジョンマスターは、自分のダンジョンを作成し運営する職業になります。ダンジョンを運営するには、ダンジョンで活動する生物から得られるポイントが必要になります。簡単に言えば、ダンジョンに生物を多く集め、ポイントを稼ぎ、稼いだポイントでダンジョンを整備拡張しさらに多くの生物を集める、ということを繰り返す職業になります。」


聞く限り忙しそうなんだが。


「条件次第ではゴロゴロも可能ですよ。リスクと制限を許容する必要がありますが。」


気になる言い方をしてくれるな。ゴロゴロのための条件を聞く前にリスクと制限について教えてくれ。


「ダンジョンマスターは、自分のダンジョンがある場合はダンジョンから出ることができません。そして、ダンジョンの中核をなすダンジョンコアを破壊されるとダンジョンの全てが消去され最初からやり直すことになります。そして最大のリスクは、ダンジョン外の生物からダンジョンコアが狙われることです。」


ダンジョンから出れない。ゴロゴロダラダラするのにこの制限はほとんど無意味だな。


リスクについても概ね理解した。ダンジョンの成長のためには外から生物を招き入れる必要があるが、その招き入れる生物はダンジョンのコアを狙ってくる。そのリスクを冒さなければダンジョンを大きくすることができないということか。


だが、ダンジョンコアが狙われる理由はなんだ?


「種族の進化、特殊スキルの習得の触媒になるからです。」


なるほどな。人によっては血眼になってダンジョンを探すだろうな。で、さっき言ってた条件とはなんだ?


「ダンジョンを大きくしないのを前提にして、誰も到達できないところにダンジョンを作成することです。」


ほー、いい案だ。だが、ダンジョンを作ったが中に何も無いというのはさすがに困るぞ、最低限の設備がないと居心地が悪いからな。


「急速な発展を望まなければ大丈夫です。ダンジョンマスターが産み出した生物でもポイントを稼ぐことができますので、時間をかければ快適な環境を用意することが可能です。」


最初が不便なのは我慢するしかないか。


「最初が不便なのはどの職でも同じですよ。」


確かにそうだな。.......決めたぞ。ダンジョンマスター、いいじゃないか。


「了解しました。最後は名前です。」


ウィンドウとキーボートが現れたな。名前を入力しろということなのだろう。


どうするかな、本名フルネームが流石に不味いというのは俺でもわかる。見た目はどうとでもごまかせるが、見た目と名前が一致したらアウトだ。だが、俺にはネーミングセンスがない。.......変に考えても駄目だな。こうなったらコレだ。


「.........本当にこのプレイヤー名でいいんですか?」


ああ、独身single無職unemployedおっさんuncleの俺にはぴったりの名前だ。


「では、プレイヤー名は、スーで登録致します。」


                                                                                                                


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