出会
引っ越しには、3ヶ月の時間を要した。
なかなかに古い家だったので改築しないとまともに住めなかったからだ。
引っ越しまでの3ヶ月間は、大変だった。
聞いたこともない家族が家を訪ねてきたり、宗教の勧誘、募金の箱を持った態度の悪い人達等々、アパートに連日こんな人達がやって来るのだ。しかも、長時間帰らない。勿論、部屋に上げたりはしていない。怪しすぎるからだ。
そんな連日の訪問客に耐えかねた俺は後輩の家に転がり込んだ。
誰にも連絡することなく消えたので、後輩の家にお世話になってからは怪しい人達が来ることはなかった。
勿論ただで泊まっていたわけではない、後輩の家業の農業を手伝い。我が家を改築中の地元の職人さんに差し入れをし仲良くなり。家具や家電等の必要な物を買い揃え。なかなかに忙しい日々を過ごしていたのだ。
そんな後輩の家でお世話になっているなかで出会ったのが、ゲームだ。
日中はなんだかんだ言ってもやることはある。日が沈んだら田舎では外の活動などできない。と、なるとやることはある程度限られてくる。後輩と酒を飲んで馬鹿な話をするのも楽しいが、毎日同じことをするわけにもいかない。
そこで、後輩に誘われたのがVRゲームだ。
まぁ、暇だしいいだろ。という軽い気持ちでやったのだが。衝撃を受けた。
俺が実家でやっていた頃のVRゲームとは何もかもが違っていたのだ。
衝撃を受けた俺は、早速次の日に都会の電気屋へ走った。VR用のゲーム端末を買うためだ。昔はオモチャ屋で売っていたVR端末も進化し、そして高価になり超高性能なパソコンと同じ扱いを受けるにまでなったのだ。
電気屋に着いた俺はそこでも衝撃を受けた。
たけぇ。こんなに高かったか?俺の実家にあったVR端末は5万もしなかったはずだが。
........いや、あれから何年もたってるんだ物が変わるのは当たり前だ。それに俺も悪かった、店員に一番いいものを見せてくれって言ってしまったからな。
298万、それが店員に勧められたVR端末のお値段だ。値段もそうだが形も様変わりしていた、まさか酸素カプセルみたいな物が出てくるなんて思わなかった。後輩の家にあったのはヘッドギアタイプだった、因みに俺が持っていたのは最初期のサングラスタイプ。そんなこともあってこんなものが出てくるなんて予想もしていなかった。
迷ったが購入した。嫌味な言い方になるが軍資金は潤沢にある、この程度どうということでもない。
だが、ただ買いました設置します。というわけにもいかない。田舎でもインターネット回線は勿論ある。だが、それがそのまま使えるかといえばNOだ。だから工事と手続きが必要になる。もちろん我が家を改築工事中の職人さんへの説明も必要だ。
そんなこんなしていたところ、ある事実が発覚した。後輩も俺と同じものを購入していたのだ。離れに急にプレハブ小屋を設置し出したので、これは何だ?と問いただすと俺より先に購入していたと言うではないか。まぁ、それはいい、自分で手にいれた金だ、どんなものに使おうと勝手だが、教えておいてくれてもいいのではないかと思う。
もうすぐ我が家の改築工事が終了するというところで、後輩から質問された。
「あーー、先輩。高いVRマシン買いましたけど、やりたいゲームってあるんすか?」
...........ない。というか最近有名なタイトルを知らない。後輩の家にあったヘッドギアタイプのタイトルも楽しかったがこれは昔のものだ。
「衝動買いっすね。このままだと動かないインテリアになるっすよ。」
その通りだ。今は浮かれて買っただけだけど使わなければ、本当にただのインテリアになってしまう。
そうだ、何かオススメのタイトルはあるのか?
「んーーーー、どんなのがいいっすかねー?結構いっぱいあるんで、何がしたいって要望がないとオススメするのは難しいっすね。」
なるほど、何がしたいかか.........そうだな、ちょっとゴロゴロダラダラしてみたい。仕事で忙しい日々を送っていたからな落ち着いてのんびりしてみたい。
「ゴロダラっすか。んーーーーー、ならこれなんてどうっすか?自分もこれからやろうと思ってたやつなんすけど。」
[TheTower]。後輩の携帯端末の画面にはタイトルと、塔の画像が写し出されていた。
タイトルと画面から察するにのんびり感は感じないがどうなんだ?
「自分もまだプレイしてないんで詳しくはわかんないっすけど、ネットとかの情報を見る限り評判はいいみたいっすよ。世界最大のプレイ人口、五感を完全に再現した臨場感、NPCは新開発の人工知能を積んでいて動きはもはや人間と区別がつかない。そして、何をやるかはプレイヤーの自由っていうのが売り文句らしいっすよ。」
自由か。
「自由っすね。」
いいな。取り敢えずそれにしてみるか。
「うっす。じゃあ、自分はお先にプレイするっす。あっ!ネタバレとかいやっすよね?」
まぁ、そうだな。新鮮味は残しておきたいな。
「了解っす。じゃあ、ゲームの内容については先輩がプレイするまで黙ってるっす。」
そうしてくれ。
そのあとの、残りの改築工事が凄く長く感じた。まぁ、それだけ俺も楽しみにしていたってことなんだろう。
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