【七〇】〜【七四】

【七〇】

 次の日、タロとケリイは怪物を研究しているという女性に会いに行くことにした。どの辺りに住んでいるかは、前日の情報とホテルの従業員への確認で分かっているつもりだ。


【七一】

「……さあ、いらっしゃい。いらっしゃい!」

「……そちらのお嬢さんたち、食べていかないかい?」

「……何してくれたんだい! あんた」

「……許してくれよ。ママ!」

 色々な商店や住宅から声が聞こえている。

 東西の大橋の通行が止められていることは、街にとっては大打撃のようだが、それでもタロには活気があるように見える。

 目的の女性の住まいに辿り着くと、そこは大きな建物だった。

 まず、老婆が出て来たので、彼女を通して会いたい旨を伝える。同じ老婆が引っ込んでは、また出て来てという感じで遣り取りに時間が掛かった。やがて、許しが出たようで老婆が研究者のいる室に案内してくれた。

「お嬢様、お話をしたいと仰っしゃられているのは、こちらのお二人です……」


【研究家】

 怪物を研究しているらしい女性は、上品な雰囲気をもち金髪の三〇代くらいの人だった。名前をルーシーといった。

「赤色をした巨大カラスについて、お知りになりたいことがあるとか……」

 ケリイが、

「そうなんです。私たち冒険をしていて、それで橋を壊す怪物を退治したいと思っています。だから、研究者の方に是非色々教えてもらいたいと考えました」

「私はもう、何処かに所属する研究者ではありません。在野の研究家といったところです」

 タロは、この言葉に彼女が過去に研究機関のような所にいたらしいということを感じ取った。それに彼女は、何かを警戒している。

「失礼いたしました。しかし、僕たちは研究の世界について疎いんです。ルーシーさんがどういう方かも分からずに参りました。知っているのは、その怪物にお詳しいらしいということだけなのです」

「ええ……」

「だから、何というか、よく分かりませんが、研究の世界に関連する政治的なこと等は全然知らないんです。こちらのケリイが言った通り、橋を壊す怪物を退治したいと思っているだけです。誰かの指示で、ここに来たということもありません」

「ええ……、他意は無いということですね。確かに、あなたがたからは冒険者のアウラが感じられます」

 そこに、老婆が戻って来て、

「お嬢様、お茶のお時間でございますが……」

「冒険者の方たちのお茶の御用意もお願いします」


【七三】

「お、美味しい……」

「本当ね」

 タロは、この世界に来てから一番美味しい飲み物に出会ったと思った。それくらいの風味だ。

 ルーシーの表情も柔らかくなって、和やかな雰囲気になっていた。


【七四】

「赤カラスのことは、古代の文献にも記述があるのです。この怪物が現れると『風が舞う』とありました。私が実際に見たことのある赤カラスも、強い風を起こして周囲を威嚇していました。文献にある怪物と、現在現れている赤カラスが同一であることは、まず間違いないと考えます。夜には満月が見えるだろう、そういう日の前後によく出現するように思えるというのも同じです」

「満月ですか?」

「ええ、私はそう見ています」

 ケリイが、

「満月の日ッて、もうそろそろじゃないですか?」

「そうです」

「いいタイミングで私たち来たわね。絶対、退治しちゃうんだから」

「お二人は、魔法はお使いになりますか?」

「はい。私が……」

 ケリイが答えると、

「文献には、旅人は雷を見方に付けろと書かれているものもあります。赤カラスは雷の魔法に弱いらしいのです」

「雷ですね。雷の魔法も使えるけれど、あれ使うとかなり疲れちゃうんですよね。どこかで練習したいわね……」

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