【五八】〜【六三】

【五八】

 三人で北にある街を目指した。

 成る程、だんだんと道が綺麗になっていく印象だった。人が踏み固めた感じの地面。街に近くなっているのだ。

 人と擦れ違うことはあっても、怪物と出会うことはない。のどか。


【五九】

 風が吹いている。草花が揺れている。鳥が啼いている。陽は明るい。

 タロが生まれ育った世界の、何処か田舎の村を歩いているみたいな感覚になってくる。

 暑過ぎない、動き易い日だ。


【六〇】

 先を行くエースに、ピッタリ付いているケリイが、

「あー、見てみて。門よ」

 確かに、アーチ状の門が見える。

 街であった。

 門には剣闘士のような者たちがいた。何か証明書の提示を求められる訳でもないのだが、街に入る目的等を問われた。

 タロは恐るおそる『冒険者』を名乗ったが、その返答に問題ない様子で通された。

 元いた街と比べると、とても大きな街のようであった。勿論、二階建ての建造物も見えていた。多くの人が行き交っている。

 しばらくはエースに付いて歩いたが、

「よし、この辺でお別れだな」

「ええー」

 ケリイの反応にエースは、

「世話になったな」

 タロが、

「そんな……。お世話になったのは、こちらなんですから。有難うございました」

「お別れは残念だけど、私もお礼を言います。有難うございました」

「旅が終わって落ち着いたら、会いに来てくれると嬉しい」

「はい。絶対です」

「私も」

 エースは頷くと、視線を移して、

「この先を真っ直ぐ行くと『ホテル』があるはずだから、そこに滞在することにすれば良い。たぶん、タロ君とケリイ君であれば『冒険者』と名乗ることで、マネーを払わずに泊まれるはずだ」


【ホテル】

 エースと別れた二人は、取り敢えず宿泊先が決まらなければ安心できない、と考えた。エースに教えてもらった通り、ホテルのあるらしい方向へと歩いた。

「もしかして、あれじゃない?」

 ケリイの指差す方向を見ると、確かにそれっぽい……。

「デカいな。随分しっかりとして見える建物ですね。……まあ、ホテルと呼ばれてるんだからなあ」

「な、何? 何て言ったの」

「いいえ、あれがホテルというものかと思って……。早く行ってみましょう」

 建物の正面入口に人がいたので、迷わず案内してもらうことができた。

 受付で冒険者だと言うと、そこの男性はタロとケリイを交互に見て、

「確かに、お二人からは冒険者のアウラが感じられます」

 一室を用意してくれた。


【アウラ】

 ホテルの或る室で休みつつ、タロはケリイに、

「『冒険者のアウラ』ッて何でしょうね? エースさんがおっしゃってた通り、マネーは払わないで良いらしいけれど……」

「要は、『冒険者』らしさ。それだけのこと。冒険者は新しい富を生む可能性があるから、料金を取らない地域は多いわ。でも、余り長く滞在していると、その内に周りの目が冷たくなってくる。何か、その地域のためになる発見でもしなきゃ、他の地域に移動せざるを得なくなる」

「じゃあ、早く情報を集めなきゃ駄目ですね」

「まあ、今日はまだ休んで大丈夫よ。大きな街なんだから、タロも愉しまなきゃ……」


【六三】

 彼女は両手を挙げ躰を伸ばす、

「うおーん、と」

 そして、息を吐き、

「取り敢えず何か食べに行こうよ」

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