【五五】〜【五七】
【五五】
結局、二、三日をエースの小屋に滞在することにした。
小川で釣りをする等して過ごす。ミミズを餌にして釣るとハヤが結構釣れた。
タロは釣りをしている時、従兄弟のことを思い出した。子供の頃、父親の実家に行くことがあり、そこには従兄弟のお兄さんがいた。その従兄弟と釣りをしたことがあったのだ。その時は、タニシを餌にしたのではなかったか?
従兄弟のお兄さんは、ビデオ・ゲームも好きだった。それも、レトロな家庭用ゲーム機のものだ。インターネットで中古のカセットを入手しては、遊んでいた。タロも一緒に遊んだし、その影響で自宅に帰ってからは自分も買ってもらって遊ぶようになった。
ゲームに『魔法』というものが登場するのは珍しいことではなかった。しかし、まさか自分がこうやって、本当に魔法の存在する世界で生きることになるとは思わなかった。
タロは釣り竿を構えながら、何時の間にか涙を流していた。傍に来たケリイは、
「どうしたの?」
やさしく、可愛らしい声で言う。
「いや……。何ていうか、素晴らしい風景に感動しただけ……」
「ならいいけど、ちょっと感動し過ぎじゃない?」
「うーん、繊細なんだよ」
「そうなんだ。何か不安があるなら言ってね」
「うん」
釣りを終えて小屋に戻ればエースが、
「おお、上手く釣ってくれたな。今晩は、これを食べよう」
【五六】
エースは畑仕事もするが木彫りのお人形を彫りもしている。北の街へ行く時に担いでいって、ショップに納品するのだという。マネーになる。
タロも挑戦してみたが、全然上手くいかない。
「わあ、これは本当に、才能がないな……」
「才能? そんなのの存在は認めなくていいんだよ。初めてで出来る訳がない」
その会話にケリイも、
「そうよ。エースさんの作ったお人形さんみたいに綺麗にするのは、大変に決まってる」
「でも、ケリイは僕より上手く出来てたよ」
「そんなことないよ」
【五七】
タロは、二人よりも早くに目が覚めた。この日の午後には、愈々北の街に入る予定であった。エースも木彫りのお人形を持って一緒に向かう。
彼は静かに音を立てないよう用心しながら外に出た。
うろ覚えのラジオ体操をやってみる。清々しい朝である。深呼吸した時の空気が美味しい。
やがて、
「早かったな」
エースが外に出て来た。
「ケリイはどうしていますか?」
「まだスヤスヤと眠っているようだったよ」
「そうですか」
「晴れていて良かった」
「ええ……」
「今日でお別れだな。人と長い間一緒にいるのが苦手な俺が、寂しいと感じているよ」
「本当にお世話になりました」
「色んな商人や冒険者を見てきたつもりだが、君たちは無事に旅を続けられるような気がする」
「有難うございます。そうありたいです」
「ところで、タロ君は、クニは南の街なのかい?」
「はい。それは……」
「……いや、訊かなくて良いことを訊いたな。何と言うか、頑張っているなと思ってね。世の中には、色々な来歴の人がいるものだよ。俺には想像もつかない現象というのもあるらしい。……いや、本当に何も分からないんだ。しかし、冒険者たちを見ていて何かを感じてしまうことがあって。大変だろうが……」
「はい。有難うございます」
そこへ、
「お早う。何、内緒話してるの? 私も仲間に入れてよ」
ケリイの表情は明るい。
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