【四七】〜【五四】

【四七】

 タロとケリイは、更に北方向へと歩を進めている。

 あの背の高い植物は、余り目にしないようになってきた。

 立て札があった。

「『危険! ヒトクイもちに注意!』か……」

 タロは、それを見て苦笑してしまった。確かにその通りだとあまりに実感できてしまって……。


【文字】

 タロはこの世界の文字を書くことは、やはり苦手である。

 しかし、読むことはできるのである。自分でも不思議なのだが、スーと翻訳できてしまう感覚があった。


【四九】

 ケリイが、

「向こうに小屋があるね」

「本当だ」

 道に逸れた向こうの方に、小川があり、その近くに人の気配のする木造の建物が見えた。

「休ませてもらおうか……。今のままじゃ、もしまた何かに出会ったら無理かも私」

「はい。僕も疲れてます」

「……魔法が使える気がしない」


【五〇】

 彼らが小屋に近づいて行くと、丁度男性らしき人が外に出てきた。

 薪割り作業を始めたようだ。


【エース】

「こんにちは……」

 ケリイが声をかける。髭を伸ばした長身の男性はこちら側を見ないままに、

「ああ、こんにちは……」

 作業をする。タロも、

「こんにちは……」

 少しの間があって、髭の男性が、

「休んでいきたいなら、そう言いなさい」

 木材を斧で割りながら言った。

 タロは頭を下げて、

「はい。少し休ませてくださいませんか」

「ああ、分かったよ。俺のことはエースと呼んでくれ」


【五二】

 タロとケリイは、小屋の中で昼寝させてもらった。ベッドが二つあったので助かった。気づいたら、もう夕方だ。あんなに晴れていたのに、寝ている間には雨が降ったらしい。ケリイの提案通り、ここに来て正解だった。

 エースの好意で、泊まらせてもらうことになった。

「いいんだ。俺は、こっちにハンモックを作って寝るから。ベッドは君たちが使ってくれ。旅の人間がここに寄るのは珍しいことではないんだ」

 夕食も御馳走になった。野菜も肉も入ったスープだった。エースの話によると、北にある街は結構近いらしく、食料の調達に今朝も行ってきたとのことだった。

「俺は、どうも街の暮らしが合わなくてね」

 ケリイが、

「怪物は現れませんか?」

「この辺りは、まだ大丈夫だね。最近他の所では、また増えてきたという話も聞くが」

「エースさん、強そう」

「まあ、多少は自信あるよ。魔法は苦手だがね」


【五三】

 エースはまた、

「二人とも、今夜だけと言わず数日泊まっていったらどうだ?」


【五四】

 夜が更けていった。

 タロは、また夢を見る。

 電車に乗り込んだ、あの夢を……。

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