【四一】〜【四六】
【四一】
「『ヒトクイもち』だわ。タロ、下がって」
【四二】
この朝も晴れていて、陽が燦々としていた。何処かで鳥が啼いているはずだが、今のタロたちには意識できていない。
【火(か)】
「ほ……、本当ですね。しかし、デカいな」
タロは剣を握って構えるかのように右手を出して、加えて左手を添える。注意深く怪物の方を見る。
ヒトクイもちは、丸っこく黒い全身をリズムを取るようにして上下に揺らしている。タロが不気味さを感じ、後ろに退こうとした瞬間、
ビヨーンと信じられないくらい高く伸びながら、彼に覆いかぶさるようにしてきた。後ろに動きながら咄嗟に、手に剣を握っていてそれで刺すようなイメージで怪物を見ると、腕巻きをしている所から手までが光り、更に剣状の像が出現、これも光っていた。
ヒトクイもちの先端はタロの胸から下に当たったが、腕巻きに嵌め込まれた鎧の石から出現した像のおかげで深くはなく、ダメージは軽く済んだ。
「はー、はー」
「大丈夫? もう一度、下がってね」
「はい」
タロが体勢を整えて距離を取ると、ケリイが怪物に向かって何やら暗唱した。そして、最後に、
「……火!」
彼女の頭上辺りに大きな火の玉が出現し、ヒトクイもちに向かって行った。
「(ジュルジュルジュル……)」
躰を伸ばしてノけ反っているところを見ると、ダメージがあるようだった。見ていたタロが、
「やった」
しかし、その瞬間、怪物はジャンプして前進し、またタロを襲って来た。
速い。
今度は、剣の像を出現させるタイミングが掴めなかった。剣の像は、ずっと出し続けたままにしておくことはできないから、その都度念じるしかないのだ。
両腕で顔を守る格好はできたのだが、ヒトクイもちの躰がベッタリと彼の全身を包んできた。重いダメージを感じて、地に尻餅を着いてしまう。ゴムのような不思議な感触が圧して来る。
しかし、何時の間にかケリイが魔法の準備をしていたらしく、
「火!」
という声が聞こえると、グオーンという音と共に怪物の躰がタロから剥がれていくのを感じることができた。
【四四】
「(ジュルジュルジュル……)」
ヒトクイもちは、最前よりも長い間、ノけ反っている。
「はー、はー」
何とか、タロは体勢を整える。
「もう少しのようね」
ケリイの、あの可愛らしい目が、鋭くなっている。
【四五】
タロは、怪物に向かって駆けた。
手に剣を握っているのをイメージ。そして、
「やあー……」
ヒトクイもちの黒い躰を、右から左にパッサリ斬る動作をした。果たして、
「グアーン」
怪物に横に切れ目が入った。後ろに折れ曲がるような形になり、そのまま動かなくなったのだった。
【四六】
「た……、助かった……。これが怪物……」
タロが思わず言うと、ケリイが、
「そうね。滅多に見ないほどに大きくて、危険だったね」
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