【二七】〜【三三】

【二七】

「バイバイ」

 ケリイにとって馴染みの人なのであろう、女性が一人手を振って出入り口の方へ向かって行く。ケリイも、手を振り返した。そして、タロの方に向き直すと、

「薬草探しの話はね、昔話? 伝説かな? それを元に考えられた計画なの。その伝説では、北の方角にある『伝説の山』に薬草が眠っているということなの」

「……場所は分かっているのですね」

「だから、始めは南の街で大盛り上がりだった。皆、薬草探しの旅に挑戦したいッて。でも結局は、薬草探しを理由に旅に出る人は少ないみたい」

「……どうしてでしょうか?」

「何故、伝説の山にそんなスゴい薬草があるかと言えば、古代の遺跡があるからなのね。薬草は、古代人が育てていたものらしくて」

「……はい」

「問題は、伝説の山には怪物がいっぱいいるということ。そして、古代人が作ったとされる『カラクリ』もいっぱいいるということね。作り物の人間みたいのが、いるらしいのよ」

「……作り物の人間」

「その話が広まってね、皆ビビっちゃってるッていうのが現状。これを聞いても、あなたは旅に出るのかしら?」

 タロは、一瞬考えた風になったが、直ぐに、

「はい。薬草は絶対に探したいです」

 カラクリがどんなものかも分からないが、分からないからこそ恐怖できずに、こう言えてしまったのかも知れない。

 ケリイは、斜め下を向いて思わせぶりな表情で、

「うーん。あのね」

「……はい」

「名前、訊いてもいい?」

「……タロですけど」

「タロは、いい男だからね」

「……ああ、はい?」

「私が付いていってあげる」

 可愛らしい笑顔だ。


【二八】

「不満なの?」

「……いえ、あの……」

「薬草探しの旅に出るなら、私と行くしかないのよ。もう仲間」


【二九】

「さあ、決まった。あなたは今から胸を張って冒険者を名乗るといいわ。……で、タロは魔法は使えるの?」

「……いいえ」

「そう。でも、魔法石は流石に持ってるでしょ?」

「……はい」

 タロは、腕に利き手にある『腕巻き』を見せた。そして、そこに嵌め込んであった青い石と赤い石を外して、ケリイに手渡した。

「『警棒の石』と『防塵の石』か……。これで旅に出るつもりだったの? 流石に北に向かうには無理がありそうよ。じゃあ、ほら。これをあげるから、代わりに身に付けなさい」

 タロは、ケリイから二つの石を受け取った。これらもまた、青い石と赤い石だ。


【剣の石(つるぎのいし)】

「青い石は、剣の石よ……」

 念じると、長い刃物状の像を出現させることができるとのこと。


【鎧の石(よろいのいし)】

「赤い石は、鎧の石……」

 身の危険を感じると、躰全体に膜の像が出現し、怪物の攻撃からのダメージを和らげることができるとのこと。


【杖の石(つえのいし)】

「石をいただいてしまって、ケリイさんは大丈夫なのでしょうか?」

「いいよ。私が使い慣れてるのは緑の石だから……」

 彼女は、自分の腕巻きを見せて、

「杖の石よ。私、魔法使うから、これが向いているのよ。……ッてゆーか、私はそれなりに戦闘を経験してる……」


【三三】

 人差し指を立てると、

「一つ注意、私のことは『ケリイ』と呼んで、その他人行儀な感じはやめてね」

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