第3話

 俺はまた、公園にいる。

 オレはまだまだ元気だが、そろそろ休ませないと、楽しみは減る。わかってはいるんだが、つい「明日も来よう」と思ってしまう。

 

 ——そしてこの子の場合は逆、だな?


 公園内を走るおデブな女の子は、今日も苦しそうな顔をしている。

 そんな顔をしながらも、今日で六日目だ。ツラいと思いながらも続くのは、きっと強い願いがあるからだろう。しかし、まだまだ続けているとは言いがたい。トレーニングは何日続けるか、ではなくて、ずっと続けるからこそ身になるのだ。

 ぶっちゃけ、走る事よりも俺のように高強度の筋トレをした方がツラくないし、痩せられるのだが、いちいちそんな事で声を掛けたりはしない。この子が選んだトレーニングコミュニケーションだ。俺のやり方を押しつけたりなんかして、やる気をなくしてしまったら、可哀想だろう?

 俺はその子の頑張りを横目に、淡々とオレと語り合う。

 だが、俺も走りたくなって来た。

 俺は左手首に巻いたスポーツウォッチを操作して、トラックの内側のレーンに立つ。

 ボタンを押す——スタートだ。

 全力ダッシュではない。このトラックを二周できるギリギリのペース、つまり七割程度のダッシュだ。二周してウォッチを押すと一分五十二秒、まずまずの記録タイム

 ゆっくり一周してから、もう二周ダッシュ。それを何本か繰り返した。

 風を突き抜けるのは、気持ち良い。

 気分が高揚した俺は、その子の存在をすっかり忘れていた。

 終わった時には既に、その子は居なかった。


 やべえ、やっちまった。


 正直、その子を意識していた感はある。トレーニング初心者の前でカッコつけたいという、欲があった。そのせいで、自信をなくしていないと良いのだが——。


 次の日、本来ならば休養日なのだが、俺はその公園に足を運んでいた。

 オレは動きたがっていたが、我慢させてストレッチのみを行う事にする。

 しばらくして、あの子がやってきた。

 俺は内心ほっとしながら鉄棒前のゴムチップにケツをつけて、その子の揺れるケツを見る。少しだけジャージにゆとりが出てきたように感じた。今までよほど運動をしてこなかったのだろう。そういう人ほど「最初の変化」は早い。身体が運動に慣れて変化が少なくなってからが本番で、そこで挫折する人も多いのだが、大きな変化ほどモチベーションの糧になるものはない。

 俺は心の中で、その子を祝福した。

 黙々と走り続けるその女の子は途中何度か俺の近くまでやって来て、またゆっくりと、遠ざかる。初日と比べて走れる距離も伸びて来ている。俺もなんだか嬉しくなって、心が躍った。

 俺が公園に来ると、遅れてその子もやって来る。俺達は言葉を交わすこともなく、それぞれのやるべき事を、同じ空間内で、日々こなす。

 そしてそんな日々が一ヶ月続き、女の子の揺れる肉が少なくなり始めた頃——。


 その子は急に、来なくなった。

 



 

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