第15話 魔王城へ帰還

「ああ、美味しかったぁ!」


 いっぱいお肉食べてお腹がはちきれそう。

 ロック達プリム村青年団主催のバーベキューパーティーは、本当に楽しかった。

 みんなが笑顔で、充実しているって感じだった。

 ……だからといって、村人が魔王に洗脳されている可能性は捨てきれないけど。でも、悪い魔力は感じなかったしなぁ。


「どうした? ぶつぶつと独りで語って」


 魔王城への帰り、翼を広げた諸悪の根源がお姫様だっこした私を息のかかる距離で覗き込んでくる。ひぃ! そんな間近で目を合わせるなっ。


「な、なんでもない」


 思わずぶっきらぼうな反応をしてしまう。


「ただちょっと、ここの人達ってやたらと物を食べされたがるなって思っただけ」


 気まずさを誤魔化した私の感想に、魔王は微妙に困った顔で「そうだな」と頷く。


「あの村に降りると、いつもローブの袂にあふれるほど菓子を詰められる」


「……」


 どんだけ地域に愛されてんのよ? この魔王。

 でも、うちの郷里いなかの親戚もそうだったなぁ。もうお腹いっぱいって言っても、まだ食べろまだ食べろって皿に料理を積んでいくの。お客様を歓待してくれる風習って、あったかくていいよね。

 こんな村の営みを何百年も眺めていたら、魔王でも人間に情が移るのかしら?

 かといってまだ、魔王が和平を望んでるなんて簡単には信じられないけど。


「では、あとは好きにいたせ」


 城に着くと、魔王は玄関ホールで私を下ろすとさっさと踵を返す。私はその背中を「待って」と呼び止めた。


「今日はもう疲れたから休みたいんだけど、私はどの部屋を使っていいの?」


 魔王城ここに滞在すると決めたのだから、部屋も割り当ててもらわないと。私の質問に、魔王は飄々と返す。


「そなたが到着した時に寝ていた部屋を使え」


 ……そこって……。


「あの、こってこての悪魔崇拝部屋?」


 露骨に眉を顰める私に、魔王は不思議そうに首を傾げる。


「気に入らんか?」


「入るわけないでしょう!」


 起きた瞬間、魔宴サバトに放り込まれたのかと思ったわ。


「寝るならもっと落ち着いた部屋がいいわ。あんなドクロだらけのベッドで寝たら、生贄の羊になった夢を見そうだもの」


 私の主張に、家主はやれやれとため息をついた。


「聖女は我儘だのう。せっかくハルバルドとセレレがそなたを迎え入れる為に熱心に装飾したというに」


「実に嘆かわしいことです」


 執事姿に戻っていた翼猫がわざとらしくハンカチで目元を拭いながら同意する。


「……魔族あなた達の感性が私の趣味と合わなかっただけで我儘扱いされるのは遺憾だわ」


 長期滞在を望むなら、インテリアくらい客の要望を聞いてほしい。


「仕方がない。セレレに城内を案内あないさせるから、好きな部屋を選ぶがよい」


「他者のもてなしを無下にするとは、これだから三桁年も生きていない最近の若者は……」


 寛容なふりで不満を述べ合う人外に、


「あなた達、私が魔王の要請に応じてここに居ることを、くれぐれも忘れないようにね」


 私はこめかみに青筋を浮かべつつ、笑顔で釘を刺した。

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