第14話 聖女の決心
「で、どうやって私を信用させるつもり? もっと具体的な証拠を出してくれるのかしら?」
私の挑戦的な発言に、魔王は顎に手を当てて思案する。
「そうさな、余の考えはすべて語ったから、あとは見てもらうしかなかろう」
「見て?」
鸚鵡返しする私に、羊角の彼は不敵に微笑んだ。
「余の居城に寝泊まりし、余の言葉に偽りがないかをそなたの目で確認するがよい」
「……は?」
私に虜囚生活を送れっていうの!?
呆然とする私をおいて、魔王はつらつらと計画を述べる。
「どうせ勇者一行はイプソメガス山まで攻めて来るつもりだったのであろう? 人の王の都からここまでは五十日は掛かる。それまでに聖女は余の心を見極め、たどり着いた勇者を説得し、対話の場を設けてくれ」
……なんか、ものすごいムチャブリされてる気がするんですけど……。
そこまで聞かされて、私はふと気づく。魔王は『王都からここまで五十日』と言っていたけど、それは人間が馬車などを使いながら旅した時の平均的な日数だ。と、いうことは、
「私がさらわれたのって、何日前のことなの?」
恐る恐る尋ねてみると、魔王はけろりと答える。
「昨夜だな」
「さ、昨夜!? 今はお昼だから、半日で王都からイプソメガス山まで飛んだの!?」
驚愕する私に、翼猫は誇らしげに顎を逸らす。
「明け方には到着しておりました。吾輩の翼の速さは魔族一、魔王様にも負けませぬ」
「速さはハルバルドに多少劣るかもしれぬが、余の翼は月まで飛べる強さだぞ」
魔王は肩の猫の顎をくすぐりつつ、しれっと返す。マウント取り合うな、人外。
魔王城に来て、まだ一日。
今、逃げ出しても勇者一行と合流できるのは最短二十五日後、高速飛行猫の目や実質魔王領の村々の包囲網を掻い潜ってジェフリーの元に戻るのは難しい。
それに……、
『幼馴染のよしみだ、自分の身分を弁えるなら今まで通り俺の傍に居させてやるよ』
……耳に蘇った彼の声を頭を振って追い払う。
昨日今日で信じていたものが全部崩れてひっくり返ってしまった。
だから、今度はちゃんと目を見開いて、自分の世界を建て直そう。
「わかった」
決意を込めて、私は頷いた。
「勇者達が到着するまで、私は魔王城で暮らすわ」
――こうして、私の魔王城生活が幕を開けたのだった。
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