第3話 魔物の襲来
酷い! あんまりだ!
私は猛然と長い回廊を走っていく。
ジェフリーが聖剣の勇者になって三年。一緒に村を出た十五歳の時から十八になった今まで、私はずっと彼に尽くしてきたのに。
彼好みのご飯を作って、面倒な事務手続きは全部引き受けて、彼用の支援魔法ルーティーンも作って、疲れたと言われたら肩や足を揉んであげて! お金だって、いくら貸したか分からない。
ずっとずっと、ジェフリーのためだけに生きてきたのに……。
滲む涙を服の袖で乱暴に拭う。
「……バラしてやる」
許せない。キャメロン姫に、勇者はこんなに非道な奴だって言いつけてやる。彼女は私の存在を気にかけていたから、自分が三股も四股も掛けられているなんて知らないだろう。
魔王との最終決戦前にパーティが崩壊したって知るもんか!
怒りに任せて王族の居館に向かおうとした、刹那。
二階の長い渡り廊下、無数の窓から差し込む月明かりが不意に翳った。顔を上げると、翼を広げた巨大な影が私の頭上を覆っていた。
「なっ」
毒々しく朱い満月を背に夜空に浮かんでいたのは、深みのある
「猫ぉ!?」
――だった。
たしか、『
翼猫はホバリングしたまま金色の瞳で私をじっと見つめると、静かに口を開いた。
「貴様が勇者パーティの聖女か?」
喋った!? しかも、渋っ! 見た目は愛らしいのに、何故か声は円熟味のある重低音な男性のそれだ。
「え? あ……」
色々と呆気に取られて私が答えられないでいると、
「何だあれは!?」
「魔物だ! 魔王軍の敵襲だ!」
夜警の衛兵に見つかった!
すぐさま矢が放たれ、甲冑の騒がしい足音が近づいてくる。
猫はチッと低く舌打ちすると、私めがけて急降下した。そして、
「きゃあ!」
両肩を後ろ足で掴んで、窓の外へと引きずり出した!
「やめ……っ」
「暴れると落ちるぞ」
振りほどこうともがく私に冷静な声が降ってきて、途端に体を強張らせる。
私の全体重を支えているのは肩に掛かった肉球付きの猫の足のみで、不安定この上ない。
すでに人が落ちたら潰れたトマトになる高さまで上昇している。
「いやああぁぁぁぁーーー!!」
絶叫は星の煌めきに吸い込まれる。
……こうして私は、夜空の向こうへと(強制的に)旅立ったのであった。
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