第1話 いつも通りの日常

いつも通りの日常

カーテンから薄く光が入る部屋に、ボッチがロックしてそうなアニメのOPが鳴り響いている。


俺は薄く目を開けて滲み出る光を感じながら、徐々にまた一日が始まることを理解した。


まだ寝ていたいと言う脳が反抗するのを無視して、無理やり体を起こした。俺は覚醒しきれておらず重い体を動かし、机にある朝を告げてくれた携帯を操作してアラームを切った。


ロック画面上には俺のお気に入りのピンクの髪をした巨乳のキャラクターのイラストが表示されている。イラストに重なるように表示された時刻には、現在6時15分と表示されている。


登校時間にはまだかなり時間があるが、いつもは前日のアニメを見てから学校に向かうためいつも無駄に早起きをしている。


だが、今日はアニメを見るのではなく、ある計画の準備のために作業を始める。


俺はデスクトップPCの電源を付けて、モニターにロック画面が表示されたので、慣れた手付きでパスワードを入力してデスクトップ画面を表示させた。


俺は手始めにブラウザを起動し閲覧履歴全てと、お気に入りのブックマークをすべて削除を始めた。


そのままPCの整理を終えた後に、そのまま部屋にある自分が死んだ後に残しておきたくないものを全てゴミとしてまとめておいた。

 

今日ゴミとして捨てられるこれらと、今日飛び降りてゴミのように死ぬ自分も大した違いはないなと苦笑する。


後は家を出る際にこれらを他のゴミと一緒の捨てるだけで大丈夫だと安堵の息を出す。

 

一番の爆弾を秘密裏に処理し終えて一息つきたいところだが、俺は最後の準備に取り掛かる。

 机の引き出しの中から白い封筒を取り出した。それには大きく遺書と書かれていた。


 その封筒を鞄で潰されないように、大切にしまいながら教科書などを入れていく。 


ここまでくれば名探偵でなくても、俺の計画の目的とこれまでの作業の繋がりがわかるであろう。


まあ、封筒に遺書って書いてある時点で誰でもわかる簡単な話だけども·····


 今日俺は自分の人生を終わらせる......


理由はなんて聞かれても、何処にでもあるありきたりな話しか出てこない。学校でうまく人間関係が作れなかった結果ボッチになり、クラスのウェーイな奴らに目をつけられていじめられただけの話だ。


そんなやつなんて世界中...いや、日本中だけでも数えきれないほどいるんだと思う。

 そいつらもみんな頑張っているんだとか言ってくる偽善者もいるだろうが、そんなことは関係無く俺にはもう頑張りたいという気がなくなっていた。


そんなことはを考えながら準備をしていたら、部屋の扉が遠慮ない勢いでノックされる。


『兄貴! 母さんが起こしてこいってウッサインだけど、早く起きてくんない?』


あからさまに不機嫌な様子を隠すこともなく、所謂妹と言うやつが俺の起こしに来たようだ。


 ここで勘違いをしている人もいるだろうが、妹はツンデレでも何でもなく俺のことが嫌いで関わると不機嫌になっているだけだ。


 まあ、実の兄が同じ学校で虐められてるんだから、そりゃあ嫌いにもなるわなと思うので反抗せず返事をする。


『わるい、今から降りるって伝えてくれ』


そう、俺がぶっきらぼうに答えると


『起こすのめんどいから、次から気をつけてよね。あと、学校では絶対に話しかけないでね』


と最後まで語気が強めに言葉を残し、扉からオーラを放っている物体が部屋の前から離れていった。


妹の関わりたくないオーラを受けて、改めて俺は嫌われてるなと仕方ないような悲しいような気持ちになりながら再認識した。


あいつは俺が死んだら悲しんでくれるのだろうか、いやそんなしおらしい姿は想像できない。あいつなら俺がいなくなったことを飛び跳ねて喜びそうだな。


 俺のせいであいつも学校で肩身の狭いをさせてるだろうし、悲しむより喜んでくれた方がいいかもしれない。


 そんなふうに考え事をしていたら、いつの間にか準備もすべて終わっていた。


 これ以上遅くなると厄介だし、さっさと下に行くかと部屋のドアを開ける。


2階の階段を降りリビングに向かうと、空腹を刺激する匂いが鼻腔をくすぐり、思わずお腹がなってしまった。


「今日はお寝坊さんだったね。御飯できてるから急いで食べなさい」


リビングに入った途端に母からそのように言われたので、頷いてから着席し急いで御飯をかきこみはじめた。


「おかわりもあるから足りなかったら言いなさい」


普段通りの優しい笑顔で言われた言葉に甘えておかわりをして、人生最後の母の手料理の味を噛み締めた。


俺が死んだら母は悲しむのではとふと思い、自殺の覚悟が揺らぎそうになる。


だが、ここで止める決心をできるほど、俺の心に元気は残されていなかった。


「母さん、美味しかった。ごちそうさま」

 

もう、伝えることはない言葉を伝えると、母はこちらを振り向きいつも通り優しく微笑みながら頷いた。

 

再度洗い物に目線を戻した母を見て、俺も鞄を持ち玄関へ向かう。

玄関を開けると夏の日差しと熱気が俺を迎えてくれた。 


『いくか......』


そう呟いた俺は噛みしめる様にゆっくりと一歩ずつ歩きだす。 

さあ、人生最後の日をいつも通り始めますか。

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