第7話
昔、冒険者ギルドの中ではシリウスの評価が真っ二つに分かれていた時期がある。
まだ若く、そして冒険者としての実力がないため下に見る者。
逆に、シリウスの性格を知り、しっかり認めている者。
生来のお人好しで、しかも真面目で素直。才能がないことは誰の目にも明らかだったが、それでもグラッドやヘクトルなどトップクラスの冒険者たちからは認められていた。
だが中堅所にいる冒険者たちからは、シリウスが妙に優遇されていたこともあり、気に食わないと思われていたのだ。
その評価が一本に纏まったのは、当時まだA級冒険者になったばかりのリューラが事件を起こしたときのこと。
当時のリューラは、よほど虫の居所が悪かったのだろう。
まるで猛獣のように大暴れする彼女に他の冒険者たちがボロボロにされて、あわやガーランドの冒険者ギルドが崩壊する、とまでなった。
それを取り押さえたのが、シリウスとアリアの二人だ。
正確にはアリアと死闘を終えてお腹を空かせたリューラに、シリウスがご飯を与えて宥めた。
ただ当時、誰も手の付けられない暴れん坊であったリューラが、何故かシリウスの言葉には従い素直にご飯を食べ始めるのを見て「猛獣使い……」と見ていた冒険者たちは思った。
そして誰も怖くて近づけなかったリューラを従えたシリウスを見て、それまで彼を下に見ていた冒険者たちも評価を変えざるを得なかったのである。
のちにヘクトルがリューラに尋ねたことがあった。
――どうしてシリウスの言うことは聞くのか?
――あいつは心が強いから。
その言葉の真意を読み取れる者はいなかったが、多くの者はまあシリウスなら、と納得した。
結局この日は依頼を受けること無く、宿に戻った。
「お帰り! 早かったね!」
「うん、実はね……」
先ほどのヘクトルとリューラとの会話を、ククルにも話す。
迷宮を攻略するためのチームを組むことはククルにも伝えている。
だが実力的に、自分がそこに入れるとは欠片も思っていなかった。
「リューラはああ言ってたけど、やっぱり俺がリーダーなんて無理……」
「お父さんにぴったりだと思うよ!」
「え?」
「むしろもうお父さんがやる以外にないよね! うん、間違いないよ!」
「えええ……?」
客観的に見て、絶対的に実力不足。
そう思っていたシリウスは、突然べた褒めしてくるククルに困惑してしまう。
なんならククルは自分の娘だから、そう言ってくれているだけじゃないか? とすら思ってしまった。
「いいじゃない」
「マリ姉……?」
「どうせあの子はシリウスちゃん以外の言うことなんて聞かないんだし、もしどうしても気になるなら代理ってことでもいいわけよ。ねえみんな?」
問いかけたのは、マリエールで飲んでいた冒険者たち。
「そりゃリューラがリーダーするくらいなら、お前についてくだろ!」
「当たり前だな! つーか普通にシリウスがリーダーで文句言うやつ、この街にゃいねぇって!」
「そうそう! 冒険者ギルドは実力主義だろうが、例外っつーもんがあるからな!」
わちゃわちゃと騒がしくなった店内。
もちろん彼らにとってそれは本心だったが、当の本人は「みんな優しいなぁ」と思っていた。
「まあでも、やっぱり俺がリーダーをやるわけにはいかないよ」
「え、どうして?」
「本当にダンジョン探索のメンバーになったら数ヶ月……拠点を向こうに作ることを考えたら冬も越しちゃうから、もっと長い間ガーランドに戻ってこれなくなくなるしね。そんなに長い間、ククルを置いてはいけないよ」
「っ⁉」
その言葉にククルは衝撃を受けた。
自分がシリウスの足を引っ張ってしまっているという事実。
そして彼が本心ではダンジョン探索に行きたいと思っていること。
ククルは頭の中で、どうすればシリウスが望んだことが出来るようになるかを必死に考えていた。
そして一つの結論に至る。
「わ、私も……」
「ククル?」
「私も一緒に、ダンジョン探索する!」
あまりにも突然の言葉に、シリウスもどう言えば良いのかわからなくなり、思わずマリーを見てしまった。
マリーも驚いていたが、こう言い出すのではないか、という気持ちもあったため苦笑する。
なにより、ククルが自分を見る目は、強い決意を宿していることがわかったのだ。
「このあと少し、ククルちゃんと二人で話してもいいかしら?」
「あ、うん……お願い。それじゃあ俺は一度、部屋に戻るね」
そう言って離れたあと、マリーは優しげな表情でククルを見た。
「ちょっと待ってて、今日はもうお店を閉じちゃうから」
そう言って彼女は店で飲み食いしている冒険者たち一人一人に出て行くように伝え、誰もいなくなったマリエールの椅子に座ると、温かいミルクを用意した。
「さ、話なら聞くわよ?」
「……ごめんね」
「いいのよ。ククルちゃんはシリウスちゃんの娘だけど、私だってそう思ってるんだから。たとえ貴方が凄い力を持っていても、特別な事情があっても、必ず守るわよ」
そう言われたククルは、自然と涙が流れた。
かつてシリウスに自分のすべてを受け入れて貰えたときに、すべて流したものだと思っていたが、そうではなかったのだ。
――この世界は……ううん、お父さんの周りは本当に優しい世界だ。
自分がもう捨て去って、二度と思い出したくないと思っていた過去。
しかしそれを捨てるのではなく、受け入れることが大切なのだと今ようやく思った。
そうでなければ、この先もずっとシリウスの人生の足手まといになってしまうのだから。
「マリーちゃん。私ね……」
自分の過去、そして本当のことをすべて話し始めた。
それを聞いてもマリーは動じず、よく頑張ったわねと一言褒めてくれるだけだった。
少し時間をおいてマリーとククルが一緒に部屋に入ってくる。
「シリウスちゃん。この子を連れて行ってあげなさい」
「……」
二人の間でどんな話があったのかシリウスにはわからない。
だがマリーもククルも、その顔は冗談を言っている様な雰囲気は一切なく真剣そのもの。
「危ないんだよ?」
「わかってる。でも、大丈夫」
ククルが話し合って決めたことを伝えると、シリウスは最初こそ驚いたものの、以前から考えてたのだと聞かされて納得する。
そうして彼女の覚悟を受け取って、ダンジョン攻略に付いてくることに頷くのであった。
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