第6話

「い、いいんですか⁉ 本当に⁉」

「うん。みんなもこう言ってくれてるから」

「やっ……たぁぁぁぁぁ」

「あ……」


 そんなエレンが喜びを噛みしめていると、リューラがやっべ、みたいな声を上げる。


 いったい何が……と嫌な予感がした周囲が固まると、エレンは渡そうとしていたカフェのペアチケットを周囲に見せる。


「ごめんエレッち。これ期限が去年までだったわ」


 その瞬間、ピシッとエレンが固まる。


「「「……お前最強の冒険者だからってふざけんなよぉぉぉぉ」」」

「いや本当にごめんって! アタシも悪気なかったんだから、ちょ、椅子投げるの止めろ! 空き瓶危ないって! つかてめぇらいい加減にしろよぶっ殺すぞおらぁぁぁぁ!」


 それまでエレンを応援していた冒険者と職員たちが一斉にリューラに襲いかかり、最初は大人しくしていた彼女も逆ギレして反撃した結果、ギルドの中が一気に騒がしくなる。


 襲われたリューラの手から離れたチケットは、ひらひらと宙を舞ってシリウスの目の前に。


 咄嗟に取ると、たしかに有効期限が去年までとなっていた。


 ――あ、でもここってたしか……。


「う、ううう……」


 泣きながら地面に崩れてしまったエレンを見たシリウスは、よっぽどこのカフェに行きたかったんだなと思う。


 だから彼女に目線を合わせるようにしゃがみ込み、声を掛ける。


「エレンさん。ここの店長なら知り合いだから、今度聞いてみるよ」

「……え?」

「多分同じメニューってわけにはいかないと思うけど……一緒に行こ。だから泣かないで、ね?」


 子どもをあやすように笑顔を見せると、しばらく沈黙。

 同時に先ほどまで暴れていた冒険者やリューラたちも、動きを止めて音を消す。


「い、行きます……シリウスさんと一緒に、行きたいです」


 エレンがそう言うと、つい先ほどまであわやギルド崩壊するのでは、というレベルで激しい戦いが繰り広げられていたのが嘘のような静寂が広がる。


 そして周囲がパチパチパチと拍手をし始めた。


 どこでもいるC級冒険者と、大人気のギルドの受付嬢。


 彼女の恋路を応援する厳つい冒険者たちと、同僚の職員たちが二人を囲い、ボロボロになったギルドでただパチパチと拍手の音だけが響く。


 この場にいるほとんどの人間にとって、悲願が達成された瞬間だった。


「俺の、ギルドが……」

 もっともヘクトルは、無残に壊された自分のホームを見て、ただショックを受ける。


 それに気付いた者たちは、見なかったことにした。




 暴れた冒険者たちと職員たちがヘクトルから説教を受け、片付けをしている間。


 シリウスはギルド長の部屋に入り、ウェイバーからの依頼について説明をしていた。


「あー、つまり冒険者ギルドで探索パーティーを組むってことか? 正式な依頼だしそいつはもちろん構わんが……」


 ヘクトルは視線を横にずらす。


 本来なら一番率先して片付けをしなければならない女――リューラがつまらなさそうにしていた。


「こいつをリーダー? お前正気か?」

「え? だって今いるS級冒険者はリューラだけですし、順当じゃないですか?」

「順当じゃねぇなぁこれが」


 昨日この話を聞いたククルとマリーも同じ反応だった。


 もちろんシリウスとしては、誰がリーダーをやってもきっと上手くいくだろうと思っていた。


 だがそこはやはり実力主義の冒険者として、最強の彼女をリーダーにするべきだと思う。


「こいつをリーダーにしたら、誰も付いて来ねぇぞ」

「そうだぞシリウス。正気になれ」

「お前、自分で言うなよ」


 ヘクトルだけでなく、リューラ本人も同じようにシリウスを説得し始めた。


 もっとも、シリウスは彼女のことを信頼しているため、困惑した顔を見せる。


「えー……そんなことないと思うんですけど」

「いいか、こいつはお前とは正反対の女だ」

「正反対?」

「実力は間違いなく最強だが、誰よりも人望がない。お前は実力はないが、誰よりも人望がある」


 自分はそんな……と思ったが、ヘクトルの真剣な表情にシリウスはなにも言えなくなる。


「もしアタシに人望合ったら、一人で西に行ってないしなぁ」

「みんなわかってんだよ。お前に付いてったら死ぬって」

「邪魔なやつに来られてもムカついてぶった切っちまうかも」

「な? こんなやつにリーダーが務まるわけねぇだろ?」


 平然とそう言うリューラに呆れながら、ヘクトルは改めてシリウスを説得にかかる。


 さすがにここまで言われたら、彼女をリーダーにするのは不味いのかもしれないと思い始めた。


「でも冒険者のチームを作るのはウェイバー様からの指示ですよ? そこで最強の冒険者であるリューラを外すわけにはいかないですし……」

「う……そりゃそうだが……」

「あと彼女が他の冒険者の下に付くって言うのは、実力主義の冒険者ギルドとしても体裁が悪いですよ。なによりみんなが認めないと思うんです」

「ぐっ……」


 シリウスの言葉は、まさしく正論だった。


 リューラという人間性を一度目を瞑れば、間違いなくその通りなのが冒険者ギルドなのだ。


 だからこそ、ヘクトルも扱いに困る。


 大貴族であるスカーレット家の命令。しかも西方開拓は冒険者ギルドにとっても悲願である。


 それを大貴族が後見人になってくれる可能性がある、これ以上ない好機。


 だからこそ悩み、悩み……。


「……おいリューラ。お前リーダーやれるな?」

「い・や・だ!」

「この自由人が……!」

「あ、でも……」


 リューラがなにかを思い立ったかのように、シリウスを指さす。


「シリウスがリーダーやるって言うなら、アタシはその下についても良いぞ」

「「……え?」」


 あまりにも突然の提案に、二人はなにを言われたのかわからず固まるのであった。

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