第8話
翌日、シリウスとククルは冒険者ギルドに入る。
冒険者にはランクがあるが、それによって受けられる依頼に制限などはない。
あくまでも目安であり、そのため仮にC級のシリウスがA級の依頼を受けようと、自己責任で済まされる。
とはいえ、実力に見合わない依頼を受ける者は多くない。
命の危険があるからだ。
逆に、ギルド側も基本は身の丈にあった依頼を推奨し、危険があれば止める方針ではあった。
エレンに話があると伝えると、彼女は個室を用意してくれた。
そこでヘクトル、リューラ、そしてエレンを交えて事情を説明すると――。
「お話はわかりました。とはいえ、私からククルちゃんを正式な冒険者に推薦することを許可は出来ません」
ヘクトルがなにかを言うより前に、エレンがまずそう言う。
「ま、そりゃそうだな」
本来なら自分が言うべき言葉を言われたヘクトルは、上司としてそれに同意する。
ククルは冒険者として活動しているが、あくまでもシリウスという保護者の監視下にある、という条件付きだ。
だからなにか合った場合の責任は、すべてシリウスが被ることになっている。
もっともそれは例外的な処置である。
この街の住人であればシリウスとの人間関係が出来上がっていること。
そして依頼者側がそれをしっかりと認識しているからこそ許されただけだ。
本来、ククルくらいの年齢の子どもを冒険者として受け入れる度量は、冒険者ギルドにはないのである。
「これまでククルちゃんが依頼として許可してきたのは、この街の人たちのお手伝いだけです。今回の話はそれとは異なりますし、何よりダンジョン攻略は命の危険も伴う……」
そこまで言って、これまで受付嬢として感情なく話していた姿から一変し、純粋に心配する目で二人を見る。
「冒険者として正式に活動している方以外で、ダンジョン攻略の許可なんて、出せるわけがないじゃないですか。ましてやこんな幼い子を相手に……私には無理です」
「エレンさん……」
「でも私、お父さんと一緒にいたいの」
「それならついて行くだけで……いえ、それでもかなりの苦労をする形になると思いますが……」
ククルと出会って、彼女がシリウスにべったり甘えている姿をもう一年見てきた。
そんな彼女がシリウスと離ればなれになることを容認できないのはよくわかる。
驚いたのは、むしろシリウスの判断についてだ。
――シリウスさんなら、自分のことよりもククルちゃんを優先するはずなのに……。
長年一緒にいたのだ。それくらいわかるし、ほぼ間違いないはずだった。
少なくとも、大切な娘を危険にさらす可能性の高い場所に連れて行くなんてあり得ない。
「もちろん、ギルドには止める権利はありません。ですが私は友人として……」
「なあシリウス。腹割って話そうぜ」
「え?」
言葉を遮ったのはリューラだ。
彼女はなにか事情を察しているかのような言葉を出し、エレンは少し驚く。
「少なくともお前が、ガキが危険に晒されるようなところに連れて行くとは思えねぇ。なのに連れて行くってことは、なにかその決断に足る理由があるんだろ?」
「それは……」
なにかを確信しているような言葉。
彼女の野生の勘とも言えるものの鋭さは、ヘクトルもよく知っている。
「シリウス、根拠を出せ。どちらにしてもこんなガキを正式な冒険者として扱うことは出来ねぇが、もしそれがわかれば、後押しくらいはしてやる」
机の下で、シリウスの手をククルがキュッと触れる。
見れば、彼女は覚悟を決めた目をしていた。
「私、凄く強いから」
「「……」」
突然の言葉に、ヘクトルとエレンは疑問に思う。
だがリューラだけは、その言葉を聞いて面白そうに笑った。
「へぇ……アタシより?」
「うん」
威嚇してくるリューラを真っ直ぐ見て返したあと、ククルはエレンたちに頭を下げる
「だからそれが証明出来たら、お父さんと一緒に冒険させてください」
あまり多くの人には見られたくない。
その要望を受けたヘクトルは、ガーランドから出て少し離れた草原で二人が戦う許可を出した。
――まさか本当に戦う気だったとは……。
すでに向かい合って、お互いやる気満々だ。
ヘクトルはリューラの実力を知っているし、まかり間違ってもククルが勝つなんて想像も出来ない。
だが今回の話はどうやら、隣にいる人物が後押ししていると聞いて、考えを改めなければならないのかもしれないと思い始めた。
「まさかアンタまで絡んでるとは思わなかったよ」
「うふふ。本気の乙女のお願いなら、叶えてあげないとねぇ」
ガーランドの元S級冒険者のマリオ。
本人にその名を呼ぶと殺されかねないため言わないが、ヘクトルにとってまさしく生きる伝説だ。
そんな彼がククルとリューラの戦いを許可している時点で、あの少女にはなにかがあるのだろう。
また厄介ごとが……と胃を抑えながら、二人の間に立って審判をする。
「いいかお前ら。マジでやるんじゃねぇぞ」
「そいつは、ククル次第かなぁ」
「私は本気でやるよ!」
ギルド長の言うこと聞けよ、と思いつつ、ヘクトルは手を上げながら離れたところにいるシリウスを見る。
どれだけ説得してもククルは首を横に振らないため、シリウスに確認するが、止める気配はない。
――ったく、どうなってやがる……。
正直、胃だけでなく頭まで痛くなってきた。
「本当にいいんだな!」
再三の確認にも、二人は頷く。
それを見て、ヘクトルは大きく溜息を吐きながら腕を下ろした。
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