第二章

プロローグ

【連載再開!】

週二くらいのペースで更新再開していきます。

最後に大事なお知らせがあるので、是非そちらも見てください!

――――――――――――――――――――――――


 ――強く、誇り高く、優しき心を持って弱者を助け、民の模範となれ。


 エルバルド王国が周辺諸国から騎士の国と呼ばれているのは、この在り方を体現しているからである。

 この国に生まれた男子はみんな、一度は剣を握り騎士を目指す。

 とはいえ、すべての人間が騎士になれるわけもなく、多くの者は別の道を模索していくものだ。


 お人好しと呼ばれる冒険者――シリウスもそんな中の一人。

 幼い頃に両親を亡くし、城塞都市ガーランドで冒険者になった彼だが、元々は騎士になりたいと思っていた。


 もっとも年齢や実力、それに様々な事情があり騎士になることは出来なかったが、それでも今はそれなりに安定した収入を得ながら穏やかな生活が出来ていた。


 そうして十年、いつも通りワカ村の依頼で森の魔物を間引いていると、一人の少女――ククルと出会う。


 大怪我をしたシリウスを一晩で治したり、彼を強化して騎士や強力な魔物すら倒せるようにしたり、ワカ村の周囲に土壁で出来た城壁を作り出すなど……。

 とてつもない力を持った彼女は、神様から『大賢者の加護』という力を授かった異世界からの転生者だと言う。


 騎士の国であるエルバルド王国は、魔術についての研究はそこまで進んでいない。

 魔術では大規模なことが出来ず、騎士が剣で戦った方が強いというのが常識だったからだ。

 しかし、ククルのそれはまさに常識の外から与えられた力。

 大陸の情勢すら左右してしまうだろう彼女の魔術は、多くの貴族、そして野望を持つ人間からすれば、なんとしてでも手に入れたいものだ。


 なにより、本人が望めば富も名声も地位も思いのまま。


 しかしククルがこの世界で求めるものは、平穏だった。

 富も、名声も、地位もいらない。自らが幸せで穏やかな生活を送りたいということ、ただそれだけだった。


 彼女の過去と想いを知ったシリウスは、ククルが一人で生きているようになるまで家族として傍にいることを決める。


 それからは彼らの人生は一気に動き出した。

 森の守護者ヤムカカンと出会ったり、封印が解かれた大魔獣を倒したり、ガーランドの領主であるスカーレット侯爵に力を追及されたり……。

そんな波瀾万丈な日々を乗り越えながら、二人はお互いの絆を深めていく。


 そして本当の意味で父娘となった二人は、城塞都市ガーランドの冒険者として慌ただしくも幸せに暮らし始めるのであった。



 シリウスがククルと出会ったのは、冬に入る前の季節。

 そしてそれから数ヶ月、冬を越えて温かい風が吹くようになり、人々や獣たちの動きも活発になってきた。


「ククル、ククル……」


 シリウスとククルが一緒に住んでいる宿――マリエールの一室。

 部屋の窓からは朝日が差し込み、明るく中を照らす。


 陽光が当たれば自然と目が覚めるシリウスと異なり、布団の中の少女は中々起きようとしない。


 シリウスは苦笑しつつ、小さな身体を丸めて抵抗する少女の肩を優しく揺すった。


「ほら、そろそろ起きないと遅刻しちゃうよ」

「んー……んー……」

「ぐるる……」


 シリウスが何度か声をかけると、ククルはヤムカカンを抱き枕にしながらぐずる。

 昨夜はラーゼ婆さんから借りてきた魔術の本を読んで夜更かしをしていたらしく、簡単に起きる気配はなかった。


 春の陽気は心地良く、眠気を誘うものだ。

 見た目が五歳程度の娘が、猫のようなヤムカカンと抱き合って寝ている姿は天使のように可愛い。

 彼女が起きられないのもよくわかり、このまま寝かしてあげたい思いもある。

 もっとも、それが許されるなら、だが――。


「困ったなぁ……」


 今日はマーサの雑貨店を手伝う日だ。

 手伝いと言ってもギルドを通した正式な依頼で、冒険者としての仕事である。


 遅刻は厳禁。なにより、マーサは子どもだからと甘やかすような性格ではない。

 ここで起こさないと後で怒られるのはククルで、半泣きになる未来が見える。

そうなる前に……と心を鬼にしてシリウスは布団に手を付けた。


「おりゃっ」

「んんんー!」


 気合いを入れて布団を剥ぎ取ろうとすると、結構本気で抵抗してくる。

 とはいえ魔術を使っていない子どものククルと、冒険者として鍛えられているシリウスでは力の差は歴然。


 一気に掛け布団を奪い取り、ククルの両脇を掴んで持ち上げ、ベッドから降ろす。


「ほら早く着替えて顔洗おう。下でマリ姉が朝ご飯も用意してくれてるからね」

「んー……はーい」


 抵抗を止めたククルは服を着替えると、寝ぼけ眼のまま部屋から出て行く。


「ヤムカカンもだよ」

「ぐるる……」


 のそのそとついていくヤムカカンを見送り、シリウスも階段を降りる。

 宿場と酒場が併設されたマリエールの一階には、これから依頼を受ける冒険者たちが朝食を食べて英気を養っていた。


 それを横目に、シリウスは自分が普段から座っているカウンターに腰を下ろす。


「おはようシリウスちゃん」


 コトン、と小さな音を立て、湯気の漂うコーヒーとミルクが置かれる。

 顔を上げると、マリエールの店主であるマリーが微笑んでいた。


「おはようマリ姉」

「こっちはククルちゃんの分ね」


 十年前、まだ子どもでありながら冒険者になったシリウスを受け入れ、いつも気にしてくれている姉貴肌の男性。

 元S級冒険者でこのガーランドでも最強の一人だった彼は、今ではみんなの母のような立ち位置で見守ってくれている。

 その懐の大きさに救われた冒険者も多く、たくさんの人に慕われていた。


「今日はどういうご予定?」

「ククルはいつも通りマーサさんのところで店の手伝い。俺はギルド長に呼ばれてるから今日は依頼を受けてないよ」

「ギルド長に?」

「うん。なんでも俺に指名依頼が入ったらしくて」


 そう言いつつ、シリウスは少しだけ困惑した顔を見せる。

 指名依頼というのは本来、貴族や大商人が上級冒険者に対して『特別な依頼』を頼むときに使われるものだ。


 シリウスも何度か受けたことがあるが、それは街の住民たちからこれまでの実績を信頼された結果であり、外部から受けたことはない。

 今回は初見の相手。しかもギルド長が直接話をするという時点で少し不安もある。


「とりあえず話を聞いて、やれそうなら頑張ってみるつもり」

「シリウスちゃんなら大丈夫よ。もし必要ならみんな助けてくれるもの」


 そんな話をしていると、外へ顔を洗いに行っていたククルが戻ってきた。

 シリウスが依頼で数日離れる際はマリエールで世話を見て貰っていることもあり、朝食を食べている冒険者たちとも顔見知りで挨拶をしていた。


 ――最初の頃はあんなに怯えてたのになぁ。


 今では街の人たちとも楽しくお話を出来るようになっていて、成長したなと思いながら朝の珈琲を楽しむのであった。


――――――――――

【コミカライズ 連載開始!!】

こちら、お人好し冒険者の漫画が、ガンガンON-LINE(アプリ)で始まりました!

漫画家の高野先生は凄まじく漫画が上手で、この優しい世界観なども完璧に表現してくれて最高の形で描いて下さっています!


本当に凄い漫画になっていますので、是非見てみてください!

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