第16話
「おぉい! シリウスが帰ってきたぞぉ!」
「貴族相手に大立ち回り! くっそぉ俺も行きたかったぜぇ!」
「次は俺たちも呼べよ! お前のためなら王国にクーデターだって起こしてやるからよ!」
冒険者ギルドに入ると、ワカ村にいなかった冒険者たちが、シリウスの無事な姿を見て和気藹々と声をかけてくる。
――間違いない、シリウスさんは魅力チート持ちだ。
ククルはそう確信した。
そうじゃないと、いかにも山賊とかしてそうな人たちがシリウスのためにクーデターを起こすとか言わない。
もちろん普段の行いの結果でしかないのだが、ククルにはもうそうとしか思えないほど、シリウスは街の人間に慕われていた。
「なんだぁ? そいつはそんなに強ぇのかぁ?」
そんな中、ギルドの酒場の奥からのしのしと、いかにも山賊の頭領のような男がやってきた。
グラッドよりも一回り大きく、いかにも強そうだ。
シリウスのことを不機嫌そうに見て、親しみを持って接してくる冒険者たちとは雰囲気も違っていた。
「新しい冒険者?」
「おうよ。東の方から来た奴でな。A級冒険者らしいが、グラッドがいないもんだから調子に乗ってんだ」
こっそりシリウスが尋ねると、近くにいた人がそう教えてくれる。
冒険者の中で、喧嘩は日常茶飯事だ。
彼の足下にはディーンを含めてC級以下の冒険者たちが倒れていて、どうやら暴れた後らしい。
「おいおい! ここは最強の冒険者が集まる街じゃなかったのかぁ⁉ なんだこの子ども連れはよぉ!」
だいぶ酔っているのか、男は顔を赤くしてだび声で叫ぶ。
「ったく、これじゃあせっかくこのバクザン様が来た価値もねぇなぁ!」
バグザンと名乗った冒険者は、ゲラゲラと周囲を馬鹿にしたように笑う。
それに対してシリウスは少し困った様子を見せる。
「ちょっと飲み過ぎだと思うよ」
「なにぃ?」
「城塞都市ガーランドの冒険者をあんまり舐めない方が……」
そう忠告している最中に、彼は背中に背負った大剣を地面に叩きつける。
シリウスの足下が壊れて、木造の床が細かい破片となって周囲に飛んだ。
「俺様はバグザン様だぞ! 舐めた口きいてんじゃねぇ!」
威嚇をするように大きく叫ぶが、シリウスからすればそんなものは日常茶飯事で、怖いなんて思わなかった。
むしろ、残念そうな表情で肩を落とすだけ。
「あぁ……やっちゃった……」
なぜなら、ギルドの床を壊した瞬間、ガーランド冒険者ギルドの中で決められた制約が解禁されてしまったからである。
「はーい、それじゃあこいつは俺がやりまーす」
「いやいや! 久しぶりに見た馬鹿だ! 俺にやらせてくれ!」
「おい待てよ! ここはこの中で一番弱い俺が先だろ!」
我先に、と手を挙げ始める冒険者たち。
つい先ほどまでシリウスを囲っていた『B級冒険者』たち。
「あ、なんだお前ら……?」
異様な空気に、バグザンが戸惑ったような雰囲気。
挑発をしても喧嘩を売ってこなかった軟弱者ども、と思っていた彼らの雰囲気が一変して、戸惑ってしまう。
シリウスはバクザンに説明をしようと思ったが、それよりも少し怯えているククルに話すのが先かと声をかける。
「……シリウスさん、これどういう状況?」
「えーと、まずこのガーランドの冒険者ギルドって、他の都市よりも冒険者が強いんだ」
たとえば、地方貴族の雇う騎士程度であれば、一蹴出来てしまうほどに。
彼らが負けたアリアやその部下たちは騎士の中の騎士と言ってもいいレベルだが、そうでなければどこでも騎士になれる実力がある。
「で、ここより西は魔物が溢れる地域だから、必然的にランクの査定も厳しくなっちゃうんだよね」
そうしてじゃんけんで勝った冒険者の一人が、バクザンと向き合う。
彼は自分が馬鹿にされているのがわかったのだろう。
顔を真っ赤にして対峙する相手を睨んでいた。
「あとこのギルドのルールで、自分より弱い相手には喧嘩を売っちゃいけないってのがあるんだけど……ギルドを傷つけたら解禁されちゃうんだよね」
バクザンが振るった大剣を避けると、そのまま拳で殴った。
顔面に入り、バクザンが倒れる。
最初の一撃でもう動けなくなっているのだが、冒険者は止まることなく連撃を加え始め――。
「バクザンはA級冒険者だって話だけど、ここだとC級上位って感じかなぁ……」
やれやれー、と囲っているのはこの都市でB級冒険者たち。
他方ではS級として活躍出来る猛者であり、それだけの実力を持ってなおその人間性の危険さによって騎士になれなかった男たち。
つまり、制限がなければ本当に暴力に躊躇いもない、本当にヤバい男たち。
それが、ガーランドの冒険者だった。
「あれ、じゃあシリウスさんも実は凄い強い?」
「いやぁ、俺はどっちかっていうと採取とか人助けとか、そういうクエストで昇級してきただけだから、普通のC級くらいかな」
「そっかぁ」
まあそんな強さがなくても、十分チートだよね。
と先ほどその『強い冒険者たち』に囲まれていたシリウスを思いだし、ククルは呆れてしまうのであった。
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