第20話 士郎、男の性に逆らえない
「本当に申し訳ございません。許してください。警察だけは本当に勘弁してください。せっかく再就職先が見つかってホームレス生活から脱却できそうなんです。本当に許してください」
士郎は地面に頭を擦り付けながら赤髪の女性に胸をガン見してしまったことを許してもらえるよう必死に謝り続けていた。
先ほどまで地面にうつ伏せの姿勢で倒れていた赤髪の女性はすでに立ち上がっており、土下座している士郎のことを見下ろす形で彼のことを見ている。
そうして、士郎が必死に許しをこうていると、
「お前、いい加減に土下座するのをやめてくれないか?周りの奴らが私たちのことをおかしな目で見てきて不快なんだ。許してやるから顔を上げてくれ」
赤髪の女性が士郎のプライドもクソもない土下座ガチ謝罪に根負けし、周りからの視線が不快であるため、許してやる代わりに土下座を止めるよう言ったのだった。
必死に行った謝罪が受け入れられ、赤髪の女性に許してもらえた士郎は、
「本当にありがとうございます!!本当にありがとうございます!!」
許してもらえたことを心の底から喜んでおり、喜びのあまりその目からは涙がこぼれ、赤髪の女性に自分の感謝の気持ちを表すために再び地面に頭を擦り付け、感謝の言葉を大きな声で叫び始めた。
再び土下座の姿勢で地面に頭を擦り付け始めたのに加え、周りのことを気にしていない大きな声で感謝の言葉を叫び始めた士郎を見た赤髪の女性は困った顔で頭に手を押さえながら大きなため息をついた。
どうやら、許してもらうためならば、恥とプライドをドブに投げ捨てることも厭わない士郎のことを呆れているようで、この態度から彼女があいぎり地区に住む一般人ではないことが窺える。
なぜ、彼女が一般人ではないことが分かるのかというと、あいぎり地区に住む一般人は日々反社会的組織の人間に絡まれているのだが、一般人では反社会的組織の人間に逆らえるほどの力を持っていないため、彼らは日々生き残るために恥とプライドを捨てて生活をしている。
士郎もあいぎり地区での生活が長いため、幾度となく反社会的組織の人間に絡まれており、彼ら反社会的組織の人間から生き残るために恥とプライドを既に捨て去っている。
逆に反社会的組織に絡まれても己のプライドのために立ち向かうような者たちは直ぐに殺されてしまうか、既に他の反社会的組織に所属しているような者がほとんどである。
そして、己のプライドを大事にしていることから、赤髪の女性は何らかの反社会的組織に所属している可能性が高く、彼女の比較的温厚な態度から反社会的組織の中でも大物の可能性も十分にあり得る。
ちなみに、士郎は地面に頭を擦り付けているため、彼女が自分のことを呆れたような目で見ていることには気づいておらず、赤髪の女性のことをただの一般人だと思っている。
そうして、再び地面に頭を擦り付けて喜んでいた士郎は満足したのか、その場で先ほどまで何もなかったような態度で立ち上がり、飄々とした様子で赤髪の女性のことを見上げた。
先ほどまで赤髪の女性が地面に倒れていたこともあって詳しい身長は分からなかったのだが、どうやら士郎よりも身長が高かったようで、身長は180cmを軽く超えているようであった。
そのため、立ち上がった士郎は彼女の視線を合わせるためには見上げる必要があった。
士郎は赤髪の女性と視線を合わせるために顔を上へ上げたのだが、赤髪の女性との身長差から彼女の豊満な胸が士郎の視界に入っており、士郎はいけないと思っていながらも男の性に逆らうことが出来ず、自然と視線が下へ向かっていった。
士郎が耐えられずに視線を下へ少しずつ動かしていると、再び赤髪の女性から今にも殺しかけそうな殺意のこもった視線で睨みつけられてしまい、命の危機を感じた士郎は急いで視線を上げ、再び彼女の視線を合わせた。
士郎は再び赤髪の女性に視線を合わせてみると、彼女は士郎のことをまるで性犯罪者を見るような目で見ており、自分の胸に視線を向けていた事に相当怒っているようであった。
一方、士郎はそんな怒りをあらわにしている赤髪の女性と対照的に落ち着いた様子であり、赤髪の女性から向けられる視線に何も感じていないようだ。
決して良いことではないが。
そうして、未だに自分のことを警戒している赤髪の女性に士郎は、
「それでお姉さんはなんで道のど真ん中に倒れていたりしたの?お姉さん、すごく美人だから、あんな場所で倒れていたら周りにいる半グレとかに襲われたりするかもしれなくて危険だよ」
赤髪の女性に道のど真ん中で倒れていた理由を質問し、あいぎり地区は反社会的組織の人間で溢れかえっているため、あんな場所で倒れているのは危険であると説明した。
士郎が真面目な表情で赤髪の女性にあいぎり地区の道のど真ん中で倒れてしまうことがどれほど危険なのか説明すると、赤髪の女性はとても驚いたような表情を浮かべていた。
どうやら、赤髪の女性はあれほどまで下品な目で自分のことを見てきた士郎が自分のことを心配して注意してくれていることに驚きを隠せていないようであった。
そうして、士郎が真面目な表情で赤髪の女性のことを注意していると、
『グ〜〜』
誰かのお腹の音が鳴ったのだった。
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