第18話 ハプニングに出くわす士郎

 一旦荷物を取りに行くために神風と別れを告げ、神風探偵事務所を出た士郎はホームレス生活を行なっていた西公園に向けて歩いていた。


 士郎は新たな環境に想いを馳せながら西公園に向けて歩いていると、右斜め前にある荒廃し切ったいかにも半グレが拠点にしていそうな廃ビルの五階から何かが勢い良く道へ向けて落下してきた。


 士郎は嫌な予感がしたので、急いで落下物から距離を取っていると、後方から何か肉が潰れたような音が聞こえてきた。


 後方から嫌な音が聞こえてきた士郎は恐る恐る音の聞こえてきた方へ視線を向けてみると、そこには血の水溜りの上に全身血まみれのいかにも反社会的組織に所属していそうな人物が倒れていた。


 士郎はその血の水溜りの中で倒れている人物に恐る恐る近づいてみると、その人物は息をしていなかった。


 廃ビルから落ちてきた人物が既に事切れていることを確認した士郎はこの場所にとどまり続けるのはまずいと思い、急いでこの場から逃げようと走りだした時、


『ドォォォオオオオオンンンンン!!!!!』


 先ほど人が落ちてきた廃ビルの五階が爆音と共に弾け飛び、五階から上の階が士郎が立っている道路に向けて倒れてきた。


 士郎は爆発が起きる前から全速力で走っていたために、何とか倒れてきた廃ビルの残骸からギリギリ逃れることができ、何とか一命を取り留めることができた。


 何とか一命を取り留めることができた士郎は安心から大きなため息をついた後、崩れた廃ビルの方へ視線を向けてみると、先ほどまで立っていた場所が廃ビルの残骸である鉄骨が地面に突き刺さっていた。


 少しでも逃げるのが遅かったら自分もあの鉄骨に貫かれていただろうと思った士郎は早急に危険を察知して逃げ出していた自分のことを褒め称え、何とか生き残ることができたことに心の底から喜んだのだった。


 そうして、長年あいぎり地区にするんでいることで身につけた危険察知能力で命拾いした士郎は西公園に帰ろうと思ったのだが、廃ビルが崩壊したことで発生した残骸が道を塞いでおり、通れなくなっていた。


 西公園まで続く道が瓦礫で通れなくなってしまったため、士郎は遠回りして帰ろうとも考えたのだが、この場所から遠回りして帰るとなると時間がとてもかかるのに加え、この場所よりも更に治安の悪い地域を通らなければならない。


 遠回りして帰りたくないなと思っている士郎はふと瓦礫で塞がれた道の方へ視線を向けてみると、道は確かに瓦礫により通れなくなっているのだが、絶対に通れないと言うわけではなく、頑張ったら通れるほどの瓦礫の量であった。


 なので、士郎は廃ビルの瓦礫による怪我のリスクと遠回りした時に襲われるリスクを考えた時、無理してでも瓦礫の道を突き進む方が安全であると判断した士郎はため息をつきながら瓦礫をかき分け、道を進み始めた。


 瓦礫をかき分けながら進み始めた士郎であったが、少し進んだところで嫌な感触と共に何かが弾けたような感覚に襲われ、自分は何か踏んでしまったことに気づいた。


 士郎は恐る恐る足元へ視線を向けてみると、そこには水風船が弾けた後のように血が地面に飛び散っており、足からは何か肉のようなものがはみ出していた。


 士郎は足を上げて自分が何を踏んだのか確認してみると、そこには潰れた肉のようなものが地面と足にへばりついており、濃密な血の匂いとグロテスクな見た目に一気に気分が悪くなった。


 だが、あいぎり地区で血生臭い事件に幾度となく巻き込まれている士郎はグロテスクなものや血の匂いには耐性があるため、気分が悪くなったところで吐いたり、錯乱するようなことはない。


 グロテスクな肉片に気分が悪くなってしまった士郎はこれ以上下を向いているのは良くないと思い、視線を上へあげてみると、五階から上の部分がなくなっている廃ビルが視線に入ってきた。


 何となく、先ほど爆発した廃ビルの方を眺めていると、五階から全身黒色のトレンチコートで身を包み、フードと仮面で顔を隠しているいかにも暗殺者という格好の人物が顔を出してきた。


 士郎はその顔を出してきた暗殺者らしき人物の方へ視線を向けていると、その暗殺者も士郎の方へ視線を向け、二人の目はあったのだった。


 士郎たちは数秒間お互いのことを見ているだけで何もしていなかったのだが、この空気があまりにも気まずかったために士郎は暗殺者に向けて頭を下げて挨拶した。


 士郎が頭を下げて挨拶してみたのだが、暗殺者から挨拶は返ってくることはなく、この暗殺者は再び五階の奥の方へ消えていった。


 暗殺者から挨拶が返ってこなかったことを少し残念に思っていると、士郎はふと自分の存在はあの暗殺者にとって都合の悪い存在であることに気づいた。


 あんなド派手な爆発は暗殺と呼べるのかは疑問であるのだが、逆にこのあいぎり地区では反社会的組織の抗争に見せかけることが出来るため、爆発による暗殺は良くあるのである。


 そして、士郎はその爆破暗殺の目撃者であり、この暗殺の首謀者と思われる黒ずくめの暗殺者のことをたまたま発見してしまい、その暗殺者にも自分の姿を見られてしまった。


 この事実に気づいた士郎はこのまま廃ビルの瓦礫に塞がれた道を進むのは暗殺者とばったり出会うのはまずいと判断し、このまま進むよりも迂回して西公園に帰った方が安全ということで、急いで爆発したハイビルから離れたのだった。


 









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