第17話 神風の甘い蜜に抗えない士郎

「そうかそうか......それなら、士郎くんが良ければなんだけど、うちの事務所の上の部屋が余ってるから使わない?」


 士郎は神風からの予想外の質問に驚きを隠せず、彼の発言を理解するまでの間にタイムラグが生じた。


 まさかの提案に士郎が理解が追いつかずに固まっていると、


「この事務所が入っているビルがあるだろう?実はこのビル全てが私の所有物なんだよね。探偵をやってるからあまりお金持ちに見えないかもしれないけど、実家がとても大金持ちなんだよ。まあ、このビルは実家の資金じゃなくて私自身が稼いだ資金で買ってるから、あまり実家とは関係ないけど」


 神風は背もたれにもたれるように座り直した後、時間が経ったことにより、冷めてしまった緑茶を美味しそうに啜りながら士郎に自分があんな提案をした理由を説明した。


 神風から提案を持ちかけられた理由を教えられた士郎はさらなる情報に脳の処理が追いつかずにショートしてしまった。


 まさかの真実に士郎は脳の処理が追いつかずに固まってしまったのだが、神風は驚いて固まってしまっている士郎のことをただ爽やかな笑みを浮かべながら見つめているだけで、特に何かするようなことはなかった。


 そうして、神風が士郎が脳の処理が追いつかずに固まっている姿を爽やかさな笑みを浮かべながら見つめていると、脳の処理が追いついてきたのか、先ほどまで固まっていた士郎が手を頭に押さえながら何か考えているようであった。


 士郎が何を考えているのかと言うと、単純に先ほどまでのやりとりを全て振り返っているだけであり、特に何か考察を行っているわけではなく、見た目の割には考えていることはしょうもないのである。


 落ち着きを取り戻した士郎は先ほどまでのやり取りを振り返ってみたのだが、改めて振り返ってみても神風からの提案には驚かされるものである。


 事務所の階だけなら自分のものであることは別におかしなことではないが、探偵である神風の事務所が入っているビル全てが彼のものであると言うパターンは珍しいだろう。


 それに、この神風探偵事務所が入っているビルは七階建とあいぎり地区の中では決して低い建物ではなく、あいぎり地区は半グレやマフィアなどの裏社会の人間が土地を保有していることが多いため、土地を他人に売る際は相場よりも遥かに高い値段で取引される。


 そのため、あいぎり地区は日本の首都である東京の中心地に近い土地を買うよりも高価な場合も珍しくなく、このあいぎり地区を裏人間ではない者が持っていることは凄いことなのである。


 そして、神風が事務所を構えている場所はあいぎり地区の中でも比較的発展している地域の近くであり、この辺りはあいぎり地区に住む裏家業の人間たち中でも最も力を持っているとされているマフィアが管理している土地である。


 そのため、この辺りの土地はあいぎり地区の中でも破格の値段設定がされており、そんな土地にある七階建のビルを丸々一つ購入することが容易に出来る神風は世界トップ層の富豪である可能性が高いだろう。


 そんな大富豪である可能性が高い神風がわざわざあいぎり地区という世界トップの治安の悪さを誇る街で探偵をしているのかと言う謎はあるが。


 そうして、士郎は神風が自分が考えていたよりも大金持ちだったのだなと思いながら彼からの提案を受けるべきなのか考えていると、


「ちなみに、士郎くんには三階の部屋を使ってもらう予定だけど、部屋には最低限の家具はすでに置いてあるから、その辺りは気にする必要はないよ。あと部屋は風呂とトイレは別で、5LDKだったかな?家としてはまあまあの広さだと思うよ」


「ご、ご、5LDKぇぇえええ!?!?!?」、


 神風が士郎に貸そうと考えている部屋の詳細について教えてくれたのだが、その貸そうとしている部屋が予想よりも遥かに超えるほどの大きさであったために士郎は驚きのあまり叫んでしまった。


 士郎は神風から貸し出される部屋はあいぎり地区の中でも平均的な世間一般的の物件よりも一回りほど小さい1Kの部屋だと考えていたのだが、実際に神風が貸し出そうとしていた部屋は5LDKと言う高級マンションと遜色ない部屋だった。


 予想を遥かに上回る巨大な部屋に驚きを隠せない士郎は再び神風から本当に部屋を貸してもらっても構わないのかと考え始めた。


 そうして、神風から部屋を借りるのか借りないのか悩みに悩んだ果てに辿り着いた答えは、


「神風さんが良いのでしたら、是非とも三階の部屋を貸してもらいたいです。公園での寝泊まりもだいぶ慣れてきましたけど、流石に公園よりも部屋で暮らしたいですし、僕が住んでいる公園はこの事務所から少し距離がありますので、ぜひお願いします!!」


 豪華な部屋を借りることにした。


 どうやら、士郎は高級マンションと遜色ない好条件な物件に住みたいと言う欲に抗えなかったようで、色々と言い訳を述べているが、単純に豪華な部屋に住みたいだけである。


 神風からの提案を受け入れることにした士郎は探偵事務所の上階である三階の部屋に案内して貰う前に公園に置いてある荷物を取りに行くと言うことで、一度二人は解散し、またこの探偵事務所で待ち合わせることにした。


 そうして、神風探偵事務所で再び待ち合わせをすることになった士郎は神風探偵事務所の壊れた扉を開け、ホームレス生活をしている西公園に向けて歩きだしたのだった。









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