第16話 神風探偵事務所での面接⑤

 士郎の超能力である金属操作に興奮を隠せない神風は気になったことを全て質問し、質問された士郎は嫌な顔一つせず、神風からの質問に全て答えた。


 そうして、何度目か分からない質問を終えた神風は先ほどまでの子供のような興奮はある程度おさまっており、今はだいぶ落ち着きを取り戻したのだった。


 流石の質問攻めに疲れた士郎は一息つくために先ほど神風に入れてもらった緑茶にゆっくりと口をつけ、パックの緑茶とは思えない濃厚な味わいを楽しんでいると、


「まあ、これで形式的な面接は終わりかな」


 神風がボロボロになったソファーにもたれるように座り直しながら、士郎に一応面接はこれで終了したと伝えたのだった。


 面接の終わりを告げられた士郎は事前にあくまでも形式的に面接を行なっていたことを知っていたのに加え、何度か危ない雰囲気になったが、それでも面接の手応えは十分に良かったので、そこまで緊張はしていなかった。


 このことは神風にも伝わっており、彼は爽やかな笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「結論から言うと、士郎くんは無事採用だ。まあ、普通に考えて君のような優秀な超能力を持つ覚者を不採用にする方がおかしいけどね。これから長い付き合いになると思うから、私の助手としてよろしく頼むね?」


 神風は爽やかな笑みを浮かべたまま先ほどまでのだらけ切った姿勢を正した後、士郎の方へ右手を伸ばした。


「こちらこそ探偵家業未経験者の若造なので、神風さんに色々と迷惑をかけるかも知れませんが、よろしくお願いしますね」


 士郎も嬉しそうな笑みを浮かべながら、神風から出された右手を自分の右手で握り、二人は力強く握手をしたのだった。


 そうして、無事に採用が決まった士郎はホームレス生活でお世話になった先輩や村長たちにこのことを伝えないとなと考えていると、


「それで面接は終わったし、今から事務所の掃除をしないといけないから士郎くんには帰ってもらう予定だけど、いつ頃から働き出せる?私的には明日からでも働いてもらいたいけど、士郎くんにも予定とかあるだろうし、君が良い時で構わないよ」


 前屈みになった姿勢の神風が士郎にもう事務所から帰って構わないことを伝えた後、いつ頃から働き出せるか質問した。


 いつ頃から働き出せるか質問された士郎は、


「僕は別に予定とかないので、明日から働けますよ。それに、今はお金が無さすぎてホームレス生活しているので、なるべく早くお金を稼げる方が僕にも都合良いですしね」


 自分には予定がないのに加え、ホームレス生活をなるべく早く脱却したいので、明日から働けると神風に伝えた。


 士郎は神風に明日から働けると伝えたのだが、彼はとても驚いたような表情を浮かべたまま固まっていた。


 士郎はいきなり神風が驚いた表情のまま固まってしまった理由が分からず、その理由を模索し始めた。


 自分が明日から働けるとは思ってもいなかったため、神風は驚いた表情を浮かべたまま固まっているのかと士郎は考えたが、彼の発言的に驚いて固まるどころか、喜びそうである。


 そのように、士郎があれは違うこれは違うと神風が固まってしまった様々な理由を考えていると、


「士郎くんって、ホームレスだったんだね......全然そう見えなかったから分からなかったよ。それじゃあ、士郎くんって今は公園とかに住んでる感じなのかな?」


 神風が驚いた表情を浮かべたまま士郎にホームレス生活をしているなら、今は公園などで暮らしているのかと質問した。


 どうやら、神風が驚いた表情のまま固まっていたのは士郎がホームレスであることに驚いたからであるようで、神風は彼の身なりの綺麗さからホームレスとは気付かなかったようだ。


 ちなみに、士郎がホームレスなのに身なりが綺麗な理由としては村長の知り合いにホームレス向けの格安のコインランドリーと銭湯の併合施設を経営している人がおり、その人の温情で面接前は無料で利用させてもらっているためである。


 このコインランドリーと銭湯の併合施設を経営している村長の知り合いは通称店長と呼ばれており、村長が管轄としている地域のホームレスたちからはとても信頼されている人格者である。


 士郎はこの施設と店長にはとてもお世話になっているため、初給料が入った時は今まで無料で使用させてもらっていた分の金額を返そうと思っている。


 神風が驚いた表情のまま固まってしまっていた理由が分かった士郎は心の中で店長に感謝の言葉を述べつつ、しっかり身なりを整えてきて良かったと思った。


 そして、身なりを整えてきたことで神風はホームレスと分かっていなかったことを知った時、士郎はホームレスと言うことで採用された件が取り消しになるのではないかと一瞬頭をよぎった。


 だが、士郎は直ぐにあいぎり地区ではホームレスや不法滞在している者たちで溢れ返っているため、そんなことでいちいち採用が取り消しにならないと心の中で自分を諭した。


 そうして、士郎が僅かに不安を感じなからも神風からの質問に首を縦に振ることで答えると、


「そうかそうか......それなら、士郎くんが良ければなんだけど、うちの事務所の上の部屋が余ってるから使わない?」


 神風から帰ってきた言葉は予想外のものであった。





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