第10話 事務所が荒れている原因⑥

 士郎は村長と先輩から伝えられた情報に理解が追いつかずに頭を悩ませていたのだが、時間が経つに連れて何とか理解が追いついていき、結構凄い事件が起きたなと信じきれていないが頭で理解することは出来た。


 そうして、士郎は一連の情報を頭で理解することができ、凄い事件が起きたものだと思っていると、


「それで、その朱義に乗り込んで調査した知り合いによると、朱義に所属していた全ての構成員たちは武闘派の構成員たちと同じように首を一太刀で切り落とされて死んでいたようだ」


 先輩が追加情報として、朱義の武闘派の構成員たち以外の構成員たちも彼らと同じように一太刀で首を切り落とされていたことも伝えた。


 士郎は先に武闘派の構成員たち全てが何の抵抗も出来ずに一太刀で首を切り落とされて殺させてしまったという情報を聞いていたため、今回はそこまで驚くことはなく、逆に納得しているようであった。


 確かに、朱義最強の武闘派の構成員たちの首を一太刀で切り落とせるほどの実力者であれば、武闘派でもない構成員たちも同じように首を一太刀で切り落とされている方が自然であろう。


 そんな朱義の構成員たちを一太刀で首を切り落とすほどの実力者が集まる集団があいぎり地区に存在していることを知った士郎はまだまだこの土地について知らないことが多いなと思っていると、


「それで、今から話す内容は確証はないんだけど、首が切り落とされた死体を調べたところ、その全ての死体の切り口が同じであることが分かったみたいだ。その知り合いは腕の立つ奴でね、知り合いによると、刀で首を切られた可能性が高いらしい」


 先輩は確証はないため、外れているかもしれないと最初に保険をかけた後、更なる追加情報として、今回の朱義襲撃事件を起こした者の武器は刀である可能性が高いと士郎たちに伝えた。


 確証はないとはいえ、更なる追加情報として相手の武器が刀である可能性が高いと教えられた士郎は、切り口の断面だけでここまで特定することが出来る先輩の知り合いは凄い人だなと尊敬したのだった。


 そして、士郎が先輩の知り合いに尊敬の念を抱いていると、


「知り合いによると、刃物による切り傷は人によって多少の差が生まれるらしい。いわゆる癖というものだと知り合いは言っていた。それで、死体を調べた知り合いによると......死体にあった切り口は全て同じ癖があったらしい......」


 先輩が爆弾発言を投下した。


 そして、士郎の脳は再び活動停止に追いやられてしまった。


 この情報は村長も聞いていなかったようで、村長も驚愕しているらしく、口をあんぐりと開けながら固まってしまった。


 固まってしまった二人を見た先輩は苦笑いを浮かべるしかなかった。





⬛︎




 そうして、あまりにもぶっ飛んだ情報に脳の処理が追いつかずにショートしてしまった士郎と村長であったが、時間が経てば慣れるというもの。


 今では二人とも平静を取り戻している。


 まあ、二人が平静を取り戻すのに十数分の時間をかけたのだが。


 何とか立ち直ることに成功した二人であったが、士郎の方はいまだに先輩から伝えられた情報を信じ切れておらず、彼からの話は半信半疑であった。


 そんな半信半疑な士郎とは違い、村長の方は先輩からの話を信じているようで、真剣な表情を浮かべながら何か考え事をしているようであった。


 そんな風に、二人が別々のことを考えている姿を先輩が眺めていると、士郎が何か思いついたのか、先輩に話しかけた。


「それで、襲撃犯が一人である可能性が高いということは分かったんですけど、その犯人が誰なのかは分かっていないんですか?こんな大掛かりな事件だったら裏の情報屋だったり、周辺組織が動いてると思うんですけど」


 士郎は先輩に朱義を壊滅させた襲撃犯の正体は分かっているのかと質問した。


 士郎がこの質問をしたのは朱義を単独で壊滅させられるという者であれば、周辺組織や裏の情報屋などが血眼で捜索しているのに加え、これほどまでの実力者は裏の世界でも名を馳せているに違いないと思ったからである。


 士郎は朱義の襲撃犯を裏の世界でも有数の実力者によるものだと予想しており、きっと今回の事件の襲撃犯も裏の情報屋によって特定されているものだと考えた。


 しかし、


「それがね、私の知り合いの情報屋たち全員がこの事件の犯人の特定が出来ていないんだよ。その情報屋たちによると、裏で有名な情報屋たちもこの情報は全く掴んでいないとのことだよ。犯人を特定する証拠が全く見つかってないようでね、犯人の特定は困難を極めると嘆いていたよ」


 先輩によると、自分の知り合いの情報屋だけでなく、裏の世界でも有数の情報屋でもこの朱義襲撃事件の犯人の情報を全く掴んでいないようであった。


 どうやら、先輩の知り合いの情報屋によると、今回の襲撃事件の犯人は特定に繋がる証拠を全く残していないらしく、ほぼ特定不能の状態にあるらしい。


 先輩の知り合いの情報屋たちも特定不能の状態でも襲撃犯を見つけてやると血眼になって捜索を続けているとのことだ。


 先輩から一連の流れを聞いた士郎は自分の予想が大きく外れてしまったことに落胆したが、それと同時に、朱義の構成員たちを抵抗させずに一方的に切り伏せるような者であれば、証拠を残さないことなど容易いなと納得もしていた。


 そうして、朱義襲撃事件を先輩たちから教えてもらった士郎は村長と先輩に見送られながら就活のためにあいぎり地区の中央区へ向けて歩き出したのだった。


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