第9話 事務所が荒れている原因⑤
士郎は先輩に連れられ、あいぎり西公園付近でのホームレス生活に慣れてきた頃、士郎が就活であいぎり地区の中心の方へ向かおうとした時、この土地に住む浮浪者たちの長のような立ち位置にいる高齢の浮浪者、通称村長と先輩が話しているところをたまたま見かけた。
士郎はこの浮浪者たちが集まるあいぎり西公園で紹介してくれた先輩だけでなく、村長にも実の孫のように可愛がってもらっているため、就活に行く前に軽く挨拶をしておこうと思い、二人の方へ近づいて行った。
そうして、二人の方へ近づいて行った士郎であったが、近づいて二人の方へ視線を向けてみると、二人とも真剣な表情で話しているようであり、何か重大なことを話していることは容易に分かった。
そのため、士郎は二人が真剣に話している最中に声をかけるのは良くないと思い、二人へ挨拶をするのを諦め、再びあいぎり地区の中心の方へ向けて歩こうとした。
その時、
「ああっ!!待って!!士郎くん!!君にも話しておかないといけない話があるんだ!!ちょっと待ってくれるかな!?」
士郎の存在に気づいた先輩が慌てた様子であいぎり地区の中心へ向けて歩き出そうとしている士郎を慌てて止めたのだった。
どうやら、先輩は士郎にも何か話しておかないといけないことがあるらしい。
先輩に止められた士郎は彼の言葉に素直に従って踵を返し、村長と先輩の近くまでやって来た。
「村長、先輩、おはようございます。何か真剣な表情で話していたようですが、何かあったんですか?」
先輩に呼び止められた士郎は朝の挨拶をまだしていなかったため、二人に挨拶を行った後、先ほど真剣な表情で話していたことに触れ、何かあったのかと質問したのだった。
「おはよう、士郎よ。お主の格好を見るに、今から就活に向かう最中だったのに、いきなり呼び止めて悪かったのう。じゃが、この情報をお主にも話しておかなければならんのだ」
士郎に質問を投げかけられた村長は、人の良さそうな笑みを浮かべながら、まずは彼からの挨拶を返した後、終活に向かう最中に呼び止めてしまったことを謝罪した。
士郎を呼び止めたことを謝罪した村長は人の良さそうな笑みから一変し、とても真面目な表情で続けるように、士郎にも話しておかねばならない情報があると言った。
士郎はこの浮浪者たちが集まるあいぎり西公園付近に来てからそう長い時間は過ごしていないが、それでも浮浪者たちの集まる土地なだけあって、この短期間でさまざまな問題に遭遇していた。
そんなさまざまな問題が起こっても村長はいつもの人の良さそうな笑みを浮かべながらその問題を解決しており、ここまで真剣な表情を浮かべている姿は初めて見た。
そんな村長が真剣な表情を浮かべているという点から、士郎は何か重大な事件が起きたのだと固唾を呼んだ。
そして、士郎が固唾を飲んで村長に耳を向けていると、
「北区の方で勢力を伸ばし続けていた半グレ組織の朱義が何者かによって一夜にして、壊滅させられたようじゃ。それも中枢だけでなく、末端の構成員、朱義に加担していた者たちの全てが抜かりなく殺されていたと聞いておる」
村長が想像を絶するあまりにもぶっ飛んだことを士郎に伝えたのだった。
村長から、想像を絶する内容を聞かされた士郎は身構えていたつもりであったが、話された内容があまりにもぶっ飛んでいたため、理解が追いつかずに固まってしまっていた。
それも仕方ない。
朱義というあいぎり地区有数の半グレグループが一夜にして、中枢を担う者たちだけでなく、朱義に所属している者たち全てがあの世に葬られたとなれば、あいぎり地区で驚かない者は存在しないだろう。
あまりに想定外の情報に士郎は思考が追いつかずに頭を抱えていると、
「私の知り合いがこの情報が出回る前に朱義のアジトに忍び込んだらしくてね、中は何者かに襲撃された後のままだったようなんだ。それで、知り合いの情報によると、朱義が誇る武闘派の構成員たち全ての首が切り落とされていたそうだ。それも切り口や死んでいる姿から一撃かつ彼らに何の抵抗もさせずに行ったことが分かったようだ」
先輩が村長の言葉に続くように、自分の知り得る情報を士郎に話した。
そして、先輩から追加で教えられた情報が先ほどの話よりも信じられないほどぶっ飛んだ内容であり、士郎は再び頭を抱えたのだった。
士郎は一度、朱義の武闘派と他の組織の武闘派の連中が争っている場面にたまたま居合わせたことがある。
その時、朱義の武闘派の人数は二人しかおらず、相手の組織は軽く三十人を軽く超えており、圧倒的な戦力差があると思えた。
士郎は圧倒的な人数差に朱義側が負けると思っていたのだが、彼の予想は大きく外れた。
朱義の武闘派の二人は三十人を超える相手組織の構成員を一方的かつ一瞬で壊滅させてしまったのである。
そんな圧倒的な力を持つ朱義の武闘派の者たちを一撃かつ相手に抵抗させる時間すら与えずに全滅させることが出来る者たちがいるとは思えなかった。
しかし、実際に朱義は組織に所属している者たち全てが殺されることで壊滅しており、士郎はこの事実を受け入れるしかなかった。
そうして、士郎が何とか村長や先輩からの話を少しずつ理解していっていると、またしても先輩から爆弾発言が投下されたのだった。
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