第4話 事務所の惨状を目の当たりにする二人

 士郎は自分の手を無理矢理引っ張って危険な事務所の中へ連れ込もうとする神風に必死に抵抗したのだが、彼の力は異常に強く、士郎が本気で抵抗しても全く振り切れる気がしなかった。


 それでも士郎はわざわざ自分から危険な場所に飛び込むなどしたくなかったので、必死に抵抗を続けたのだが、彼の抵抗も虚しく、士郎は神風に引っ張られる形で彼の事務所の扉の前まで来てしまった。


 そうして、扉の前までやって来た神風は事務所の中へ入るためにもドアノブに手をかけたのだが、


『バキッ!!!』


 ドアノブを握る手の力が強すぎたようで、神風は扉についているドアノブをへし折ってしまったのだった。


 神風がドアノブをへし折る瞬間を目の当たりにした士郎はドアノブを回すかのようにドアノブを根本からへし折るという怪力仕草を見せた神風にドン引きしており、そんな彼が自分の手を握っている状況に恐怖まで感じ始めた。


 ドアノブを回すかのように平然とドアノブを根本からへし折れるくらいの怪力を持つ神風に逆らったら、自分の腕もあのドアノブのようにへし折られてしまうのではないかと士郎は考え、彼には逆らわないようにしようと心に決めた。


 まさか、ドアノブが折れてしまうとは思ってもいなかった神風は事務所の扉をどう開けようかと悩んでいたのだが、


『バコォォオオオンンンン!!!!!!』


 考えるのが面倒くさくなり、事務所に繋がる扉を蹴り飛ばすことで、中へ入れるようにしたのだった。


 神風が事務所の扉を蹴り飛ばしたところを見た士郎は、


「ええぇ......探偵なのに暴力で解決するの......探偵ならこう、何というか頭を使って解決するものじゃないのか......」


 神風は探偵なのに、頭を使うようなことはせず、蹴り破ると言う暴力で問題解決したことが解釈違いだったらしく、蹴り破るという奇行に引きながら理想と探偵像を独り言として、ぶつぶつ呟いていた。


「いやあ、うちの探偵事務所は結構暴力で解決しなければならない案件が多いのでね?普通の探偵のように頭を使うようなことは少ないのだよ。まあ、今回のドアのことと言い、大抵のことは暴力が解決するから、頭を使わなくても問題ないだよ」


 士郎の呟きを聞いたのか、神風は士郎の探偵像についての言い訳として、自分が請け負っている仕事は基本的に頭を使って事件を解決するのではなく、暴力で解決する事案が多いので、頭を使う必要がないと言ったのだった。


 神風から暴力で解決する仕事をが多いと聞いた士郎は、


「確かに、こんな治安が終わってる場所で探偵をするとなったら、基本的に暴力で解決する仕事が多いのが普通か......普通に考えて、毎日のように人が死ぬような街で普通の探偵事業なんて出来るわけがないもんな。やっぱり力こそパワーか......」


 あいぎり地区と言う人が毎日何かしらの事件に巻き込まれて死ぬのが当たり前の史上最低の治安を誇る場所で普通の探偵業など出来るはずがないと神風の言い分に納得し、最後には意味の分からないことを言い始めた。


 神風はその場しのぎの適当な言い訳を述べたつもりだったのだが、士郎が勝手に神風の言い分を深読みして勘違いしてくれたので、神風はこのまま勘違いさせたままにしておこうと心に決めた。


 そんなふうに士郎が適当な言い訳を深読みし、勝手に納得していると、力尽くとはいえ、事務所へ繋がる扉が開いたので、士郎は神風に引っ張られる形で事務所の中へ入った。


 そして、事務所の中へ入った士郎は目の前に広がる惨状に頭を抱えたのだった。


 何故なら、事務所の中はめちゃくちゃになっていたからだ。


 道路側にあるガラス窓は全てバリバリに壊れており、この事務所に訪れた依頼者と面談するであろうソファーはビリビリに破れて中身が飛び出しており、机は真っ二つに割れていた。


 事件解決のために集められたであろう資料や様々な本が収納されている窓ガラスとは真反対の壁に立てられている多くの本棚は倒れており、地面には割れたガラスの破片や資料などが散らばっていた。


 他にもロッカーや収納棚、ハンガーラック、事務作業を行う机や椅子など、事務所の中にある様々なものはめちゃくちゃにされており、この現場だけを見た人は絶対に強盗にでも入られてしまったと誤解してしまうだろう。


 それほどまでに荒れた事務所を見た士郎は一体どうなったら、こんなことになるのかと目の前に広がる光景に絶望しながら、この惨事を引き起こしたのは誰なんだと不思議に思ったのだった。


 この惨事を引き起こしたであろう人物はいないのかと士郎は気になって広い事務所の中を見渡してみたのだが、この事務所の中に自分と神風以外の人間を見つけることは出来なかった。


 そんなあまりにも絶望的な散らかり具合に神風はどう思っているのか気になった士郎はふと自分の隣に立つ神風の方へ視線を向けた。


 視線の先にいた神風は先ほどと変わらない笑顔を浮かべていたのだが、明らかに笑顔のまま固まっており、神風も目の前に広がる光景に絶望していることが分かった。


 どうやら、神風もここまで荒れていることは想定外のようであった。


 そうして、二人は大変なことになっている事務所の中に絶望していると、


「まあ、とりあえず依頼者用のソファーの方へ移動しようか......」


 神風の案内で真っ二つに割れたテーブルを中心に挟むように設置されているビリビリに破かれ、中身が外へ飛び出しているボロボロのソファーにお互い向かい合うように座ったのだった。


 

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