第2話 神風の大胆な登場

 士郎は緊張を胸に目的地の神風探偵事務がある二階へ登ってみると、階段のすぐ近くに神風探偵事務所という文字が書かれた張り紙がドアガラスに貼られている扉を見つけた。


(ここが、助手を募集していた神風探偵事務所か......ガラス窓がついている扉なんて、あいぎり地区にしては珍しいな。まあ、ドアガラスを使ってるということは何かしらの防犯対策はしてるんだろうし、俺が気にすることはないか)


 士郎は治安最悪のあいぎり地区で入り口の扉にドアガラスを貼っていることを不思議に思ったのだが、わざわざドアガラスを使っているということは何かしらの防犯対策があるのだと思い、気にしないことにした。


 ちなみに、あいぎり地区でドアガラスなど使った日には即行で近くを彷徨いている半グレや強盗にドアガラスを叩き割られ、ドアを外から開けられてしまい、幸運なことに外出していた時は中にある金目のものを全て盗られてしまうだろう。


 もしも、運悪く外出していない時に強盗や半グレに侵入された時には女の場合、そのまま殺されてしまうか、人身売買に出されてしまうか、自分たちが営業している風俗店などで無理矢理働かされるだろう。


 男の場合は大体その場で殺されてしまうのだが、中には建築会社を運営している組織もあるので、そういう組織にあたった場合は人がいつ死んでもおかしくない超劣悪な環境で土木の仕事に着かされる。


 もちろん、風俗店で働かせられている女も超劣悪な環境で土木の仕事をしている男たちも使えなくなった場合は殺されてしまい、死体が残らないよう工業シュレッダーで粉々にされた後にコンクリートと混ぜられ、道路や建物の壁になったりする。


 あいぎり地区に住んでいる人たちもこんな死に方はしなくないので、基本的にこの地にある建物の扉は超極太の鉄で出来た扉が多い。


 士郎は治安最悪のあいぎり地区に大きなドアガラスが貼られている扉を使っているのは珍しいなと思いながら、面接を受けるためにも神風探偵事務所の方へ近づこうとした時、


『バリィィィィンンンンン!!!!!!!』


 先ほどまで綺麗に貼られていたドアガラスが轟音と共に大きく割れ、神風探偵事務所の中から何か人のようなものが勢い良く飛び出して来た。


 士郎は治安最悪のあいぎり地区に住んで3年も経つので、このような予想外の出来事には慣れており、ドアガラスが割れたことには驚いたが、何よりも神風探偵事務所の中から飛び出して来たものが自分へ向けて飛んできていたため、士郎はその何かを回避するために壁にへばりついたのだった。


 士郎は急いで壁に張り付いたことで、神風探偵事務所の中から飛び出してきたものを回避することに成功し、


「ぐへぇぇええ!!!!!」


 中から飛び出してきたものは悲鳴のような声を上げながら後方にあった壁に激突した。


 何とか、探偵事務所の中から飛び出してきたものと激突することを免れた士郎は先ほど悲鳴が聞こえてきた点から、中から飛び出してきたものは人であったことが予想できた。


 そして、士郎がゆっくりと事務所の中から飛び出してきた人物の方へ視線を向けてみると、そこには透き通るように美しい銀髪で緋色の目をした美形の男性が壁に下半身を押し付けるように逆さまの状態で倒れていた。


 その美形の男性はドアガラスを突き破って外へ出て来たため、頭や上半身には体力のガラス片が突き刺さっており、頭からは大量の血が流れている。


 その男性は真っ白のスーツに黒いズボンを履いているのだが、頭や上半身から流れ出る血により、その白いスーツは赤色に染め上げられており、彼の倒れている位置には小さな血の水溜まりが出来ていた。


 そんな男性を見た士郎は彼の出血量や傷の具合から命は助からないだろうと憐れむような視線を向けていると、


「やれやれ、うちのミーナは少々元気が良すぎるな。まさか、殴られた勢いでドアガラスを突き破って外に投げ出されるとは思ってもいなかった......はあ、新しいドアガラスに付け替えなければならないなぁ〜」


 頭から大量の血を流している美形の男性がその場に立ち上がり、何か独り言を呟きながら頭を勢い良く振り始めた。


 この男性が頭を勢い良く振ると、頭に突き刺さっていた体力のガラス片が彼の頭からボロボロと落ちていき、頭に刺さっているガラス片が全て落ちた後は体を両手でパンパン!とガラス片をはたき落とした。


 体に突き刺さっていたガラス片を全て払い落としたことを確認したこの男性はポケットの中から黒色とハンカチを取り出すと、頭から溢れ出した血で汚れた顔を拭き、何事もなかったような表情をしていた。


 この一連の流れを見ていた士郎は何事もなかったような表情を浮かべていることに「ええぇぇ......こいつマジ......?」と言う少し引いたような表情を浮かべていた。


 そんな表情を浮かべながら士郎が美形の男性を見つめていると、士郎からの視線に気づいたのか、何事もなかったかのように血で真っ赤に染まったシャツのまま士郎の方へ視線を向けた。


 美形の男性に視線を向けられた士郎は彼が神風探偵事務所の中から飛び出して来たことから彼は神風探偵事務所に所属している人物であることは分かっていたので、このまま引いた表情を浮かべているのはまずいと思い、笑顔を浮かべようとしたが、少々引き攣った笑顔になってしまった。


 士郎が引き攣った笑顔を浮かべていると、美形の男性が話しかけてきた。


「君が今日面接に来る予定の子かな?初めまして、私はこの神風探偵事務所で探偵をしている神風 彪哉だ。よろしくね?」


 なんと、このイカれた美形の男性が事務所の名にもなっている神風探偵であった。



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