第2話 ありがとう


「ほ、星が爆発!?」

僕の手に握られた紙にはしっかりとそうプリントされていた。

『拍手すると星が爆発する能力』

何度見てもそう書いてある。意味を飲み込むために脳で繰り返し読み上げる。

星?夜空に浮かぶ星?それならまだマシなのかもしれない、だけど問題は星が今自分が腰を下ろしている『星』だった場合。その場合今にでも拍手すれば僕、いや この世界ごと爆発してしまう。ってこと?


、、、

「ふっ」

僕は草に寝転がり軽く鼻で笑う。

何を考えているんだ僕は、そんなことある訳がない。大体今までのことが夢だった可能性だってあるし、この紙も誰かがイタズラで入れたのかも。まぁ僕が見知らぬ草原に寝ころんでいるのも事実だし、いつまでもこうしているわけにはいかない、ここがどこだか確かめるという意味でも

「町、村?とにかく人が沢山いるところ」

に行くことに決めた。


僕は立ち上がり辺りを見渡す、風を前面に受けて髪が邪魔をしながらも僕は景色に煙らしきものを見た。

「工場?かな」

あるいは誰かがキャンプでもしてるのかも。どちらにせよ人がいることは確かだ。ここにいたって何も始まらないし、こんな見知らぬところで野宿はちょっと怖い。僕は煙を目指し、決心を込めて歩き始める。ついでに

『もしここが本当に異世界なら、ここでは好きなようにイキリ散らかしてやる!』

と今更モジワジワ湧きあがってきた不安に対し、強がって心で叫んだ。



モクモクと立ち上る煙がようやくほんの少し太くなってきたころ、僕はすっかり疲れ果てて道に座り込んでいた。上を見ると空に「貧弱」と笑われているようでガクッと頭を下げ、地面を見つめる。

「思ったより遠い」

歩き始めて大分経ったはずだけど、一向にたどり着かない。それに喉も乾いた、自販機でもあればいいんだけど今はお金もないし ここが異世界なら自販機なんて無いんだろうなぁ。

「ふぅ」と息を漏らし頑張って立ち上がろうとしたその時、

パカラッパカラッ、まさに馬!と言わんばかりの駆け音が聞こえる。

音の方に振り向くと馬の頭が見えると同時に「そこの君!」と男性の呼び声が聞こえた。


「君!こんなところで何をしてるんだい?」

男は馬を僕の傍らに止めて、乗馬した状態で話しかけてくる。馬と合わさりかなり大きく見えて思わず委縮してしまう。

「ここらは獣も多い、子供一人では危険だぞ」

男は鼻筋が高く金髪で、まるでフランス映画のエキストラみたいな人だった。

「け、煙の所に行きたくて」

僕は指でちょこんと煙の方角を指す。それを見た男は馬の上から指の方角を見ると

「何?あぁ、あそこの町か」と言った。僕はまだ委縮した状態で細かく何度も頷く。

「ならちょうどいい、私もあそこに用があるのだ。一緒に連れて行ってやろう」

男は僕に向かって手を伸ばす。

「え!?いや、そんな」

「何だ、馬は嫌いか?」

「あ、いや。そうじゃなくて」

馬のスラッと細い足を見つめ、下を向いたまま話す。

「全然歩けるんで、だから大丈夫です」

「しかしあの町に行くのだろう?」

「それは、まぁそうです」

男はハァとため息をつく。


「私の妹も君のようにシャイだが、乗りかかるのも大切なことだぞ」

「うぅ」

確かに『全然歩ける』なんて大嘘だ。もう一歩だって躊躇してしまうくらいには足は棒になっている。でも何でだろう、いつからか相手の申し出には反射で断るようになってしい、気付けば誰からも声を掛けられなくなっていた。何故こうなったのかはわからない、けど

「好きなように、イキリ散らかす」

「ん?何か言ったかね?」

「あ、いや」

思わず声に出てしまったのか。僕はフーッと息を吸いなおし、意を決して言った。

「つ、連れてってください。お願いします!」

声は変に上ずり、笑われたっておかしくなかったろうに 男はしっかりと頷いて

「もちろんだとも。さぁ乗りなさい」

と言ってくれた。


馬は本当に驚くほど速かった。流れる風を割って進む、走る揺れが体に伝わる。景色も楽しめれば良かったんだけど僕はビビッて男の背中にがっしりと抱き着き、目を瞑っていたので景色はわからなかった。

「さぁ、着いたぞ」

ゆっくりと目を開ける。

そこには中世の家みたいな、アンティーク?とかヴィンテージ?って言葉が似合いそうな建物が道に沿って並んでいた。

僕はゆっくりと馬から降りた後も少しの間その風景を眺め、喉をゴクリと鳴らす。

『本当に異世界?いや、まだ海外って可能性も』

「君、大丈夫か?」

ハッと意識を取り戻して後ろを振り返ると、男は心配そうにしてこちらを見ていた。

「もしかしてここじゃなかったか?」

「え?いっ、いやいやいや」

僕は首をブンブンと振る。

「そうか、それは良かった」

男は笑顔を浮かべるとポケットから一枚の紙を取り出してこちらに渡してきた。

「私はね、この町でギルドを運営してるんだ。君が大人になったらぜひ ウチを活用してみてくれ」

紙を広げるとそこには『ギルド、ホワイトクロウ  ~初心者歓迎~』と大きな文字で書かれていた。


「それじゃ、私はこれにて失礼するよ」

「えっ、あっ、あの。ありがとうございましたっ!」

素早く深々と勢いよく頭を下げる。

「なに、お安い御用さ。では」

男は馬を駆り、颯爽とその場から立ち去って行った。


「良い人だったな」

僕は再び貰った紙を広げる。よく見ると『ギルド、ホワイトクロウ  ~初心者歓迎~』の下に『代表 モノ・シングル』と書かれていた。

「モノ・シングル。不思議な名前、さっきの人かな」

その下にはギルドの場所と思わしき地図が載っていた。

『それにしてもギルド?いよいよこれじゃあ』

ふと光に照らされて紙の文字が透け、裏にも何か書いてあることに気付く。僕はヒョイと紙を裏返すと

「え?」

そこには表の歓迎的な感じとは反対にキチンとした文字で『ドラゴン 100万ステラ』と書かれていた。

それだけじゃない、他にも『ゴーレム 60万ステラ』『スライム 5万ステラ』など如何にもファンタジーな名前がずらりと並んでいる。かと思えば『クマ 40万ステラ』『イノシシ 8万ステラ』といった知ってる動物たちも載っていた。

「何これ」

「おいボウズ!ボーッとしてんじゃねぇ、邪魔だ!」

思わず立ち尽くしていると後ろから怒鳴り声が聞こえる。

「うひっ!スイマセ」

後ろを振り向いて思わず固まった。「ほっ」


「骨?」

「あん?何だよ。俺がスケルトンで何か文句あっかよ?えぇ?」

僕はあまりに非現実的な光景に、その男が何のトリックでもなく本当に骨だということをよく目で確認した後「なんだ、本物かぁ」と言い 無事に気絶した。

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