可哀そうな人、転生しても可哀そう

ポロポロ五月雨

第1話 はじめまして


「神様、僕は優しくありません。どうすればいいのですか?」

「優しくある必要はありません、優しくあろうとすることが大切なのです。」


この言葉を信じて生きてきた。18年間、困ってる人が居たら声をかけ 泣いてる人がいたら慰めた。

僕は生まれつき優しくないから、全部無理してやったことだけど みんなが助かるならそれで良い。


『余計なことをするな』

『何を考えているかわからない』

『お前といると窮屈だ』

、、、、、、



「、、、?」

目が覚めると真っ白な、いつまでも続く地平線 いつまでも高い空。筒抜けでベッドも何もない病室みたいなところに僕は立っていた。

『どこ?』

ココがどこだかもココに来るまでの記憶も、全てが脳から抜け落ちたようで一切覚えてない。普通なら凄い不安に襲われるところだろうがなぜだろうか

「安心する」

「そうでしょうそうでしょう」

気付けば隣に白いスーツを着た男の人が立っていた。流石に驚き、体を後ずさりさせる。


「あぁ、警戒なさらず。どうぞ、お座りください」

「座る?」

「どうぞ」

男が椅子を引く動作をする、からかっているのか?とも思ったが 驚いたことに男が椅子を引く動作をしたその場所にはうっすらと椅子の輪郭が浮かび出ていき、やがて机ともう一つの椅子までがくっきりと形を成して出現した。

「、、、?」

人は本当に驚くと言葉なんて出ない、ただ疑問だけが僕の頭を埋め尽くす。

「はは、始めはみんな驚かれるんですよ」

男は笑顔で慣れた対応をする。「すぐに慣れますよ」

僕は何もわからないまま現れた椅子に座る。椅子はしっかりとした安定感を持ち、僕の体重を支えた。


「え~、ではですね。シゴタイオウの方なんですけども」

「? え、あっ、あの」

「はい、どうされました?」

聞きたいことなら山ほどあるが さも当然のように発された単語が耳に引っかかった。

「死後対応?」

僕が怪訝な顔で首をかしげると、男もまた怪訝そうな顔でいつの間にか手元に置いてあった資料をパラパラとめくり始め ある紙で止まる。


「あ~!自覚無い感じですか」

「じ、自覚?」

「多いんですよね、特に事故で亡くなられた方ですと突然のことで気付かないって方も」

「事故?」

さっきから訳が分からないまま相手の言葉をオウム返しすることしか出来ず、頭の中は『?』で覆いつくされてしまう。1から説明が欲しい、と言おうとしたその時 この空間のことなんてどうでもよくなるくらいの発言がグチャグチャの脳を突き抜ける。


「貴方ね、死んだんですよ。トラックにはねられて」

「あっ、ほえ~」


ここで返すべき言葉は決して『ほえ~』ではないことくらい僕も分かるがあまりに突拍子もなく死んだなんて言われると逆に何も言えなくなってしまう。僕はもうこのまま何も言わずにこの人の言葉に耳を貸すことにした。


「それでですね、次の行先に、、、」

「今後についてなんですけど、、、」

「ご希望の選択、、、」


だが上手く言葉が聞き取れない 『死んだのか、本当に?』夢でしょ、流石に。

男の言葉が部分的に入って来る、『魂』『来世』『穢れ』といった宗教的なものから『確認』『手続き』『書類』など業務的なものが入り乱れて、混乱していた僕の頭をさらにかき回す。

だがそんな僕の頭に一つの単語が浮かび上がる。


「天国、、、」

「、、、あ~」

男は話す口を止めて視線を横にずらす。

「僕、天国ですか?」

何とか頭で言葉を繋げて絞り出し、聞く。

すると男は書類を机に置き、腕を組むと「ん~」と唸った。

「すいません、大変言いにくいことなのですがね」

男は渋い顔をし、さっきより小さな声で言う。


「天国とか地獄ってものはね、そもそも存在しないんですよ」

「、、、」

ショックだった そりぁ自分だって天国に行きたくて優しくなろうとしてたわけじゃないが、、、いや、嘘だ。正直天国を信じて、いつか報われると信じて、それをモチベーションにしてたくさん優しいことをした。だから、、、


『もっと好き勝手生きればよかった』

涙がこぼれる。ボロボロこぼれる。熱くて、しょっぱい。

いつも笑顔でいた僕が涙を流すなんていつぶりだろう、思い出せないくらいには昔のことなんだろう。


「ん~、後悔生前に立たず、と言いますからね。貴方みたいに天国を信じて善行を行う人は結構いるんですが、皆さんやはり涙を流されて」

ガチャ、キィイイイ

男の言葉を遮るように何か音がする。ドアが開く音?

音がした方を向くと、そこには男より少し若いくらいの眼鏡をかけた男が立っていた。同じ白いスーツを着た眼鏡の男は中腰で小声で『スイマセン』と言った後、小走りで目の前の男の元へ行き 耳打ちをし始めた。


「実は、、、」

「!? え、本当に?」

「はい、ですから。特例で、、、」


話しが終わったのか眼鏡の男は『スイマセンデシタ』と言ってどこかへ小走りしていき、気付けば白い空間に吸い込まれるように消えてしまった。

「ん~、これはこれは」

眼鏡の男が消えるのを確認した後、目の前の男は人差し指でこめかみをトントンと叩き始めた。

「いや~、貴方。運が良い、いや?悪いのか?」

「え、、、?」

「実はですね、貴方を轢いたトラックの運転手というのがどうにも現世で活動中のコチラの職員だったらしくてですね。まぁ~要するに貴方が死んだのはその」

男は深く息を吐きながら

「ウチの職員の不手際ということでしてね」

と言った。


「ふ、不手際?」

「はい、不手際です」

意を決した顔でキッパリと言い放つ。

「え?じゃあ、僕生き返り」

「ん~、それがですね」

男は手元の資料のうちから1枚を抜くとこちらに読めるように差し出してきた。

「生き返りってのはですね。ほらココ、『写真、映像としてその人の生命活動停止が記録されてない場合に限る』って書いてあるでしょ?貴方の場合防犯カメラとか野次馬のスマホとか、結構な所に貴方の死が映っちゃってるんですよね」

「はぁ、、、」

「そんな状況で貴方生き返らせちゃったらどうなると思います?」

「あぁ、なるほど」

きっと話題にはなるだろう。

「昔ならまだしも、現代社会で生き返りってのは森の中でひっそり死んでる。とかじゃないと厳しいですね」

「あえっ、じゃあ僕は」

「別の世界に移送って形でどうですかね」

「べ、別の世界?」

「はい、いやもちろんタダで行けとは言いませんよ」


男はペラッと今までの紙より1回り小さい紙とボールペンを差し出してきた。

「そこに貴方が欲しい能力を書いてください」

「能力?あ、足が速いとか。記憶力が良いとか」

「いいや、そんなんもんじゃありません。火を吐くとか、物を凍らせるとか。何でも構いませんよ」

「え、そんなファンタジーな」

「ははは、ファンタジーも当然ですよ。貴方が行く世界は貴方が元いた工学の世界の片割れ、魔法の世界なんですからね!」

まるでテーマパークのアトラクション説明のようなテンションで男はそう言う。

「ですから!何でも、本当に何でもいいんですよ!」

「うぇ、うーん」

何でもと言われると逆に困ってしまう。僕は今までに漫画とか小説とかをあまり読まなかったから急に魔法とか言われてもそんな、、、


『もっと好き勝手生きればよかった』

さっきの言葉が脳に浮かび上がる。そうだ、天国が無いってせっかく知れたんだ。だったら次の世界では好きに生きてやる そのためには。

僕はボールペンのキャップを外し、堂々と紙の真ん中に文字を書く。

 

『とにかく強い能力!』


まるで部活勧誘のチラシみたいだが、これでいい。紙を男に返却する。

「良いんですか?ランダム性が高くて、私でさえどんな能力に目覚めるのやら」

「はい、大丈夫です」

ココに来て初めてまともに声が出せた。男は少し微笑むと「分かりました」と言い、立ち上がった。

「ではこちらの扉から」

男がドアを開ける動作をするとさっきの椅子と同じようにドアの輪郭が浮かび上がりやがて開いたドアがそこに出てきた。


「では、今回の件 誠に申し訳ございませんでした」

男は深く頭を下げる。

「後生を楽しんで、次こそ悔いの無い様に」

「はい、頑張ります」

僕は向こうがうっすらと光るドアの前に立つとゆっくりと足をドアの向こうへと運んだ。


その瞬間僕は光に包まれてやがて、、、




目が覚めると青い空が見えた、風で揺れる草が頬をくすぐり。自分が寝転がっていたことに気付く。

「ここが別世界?」

上体を起こし辺りを見渡すと、草が生い茂った草原のような場所に出ていた。

涼しい風が吹いて心地いい 空気も澄み渡って息がしやすい。

「良い場所、、、」

思わずそう呟いてしまうくらいには自然に溢れた落ち着く場所だった。

たまらずもう一度寝転がる、するとズボンのポケットに封筒が入っていることに気付いた。


「? なにこれ」

封筒を見ると『アnタのの0うr・ょく』と機械のフォントで文字が打ち込んであった。

「アナタののうりょく でいいんだよね」

バグってはいるが辛うじてそう読めた。そうだ、能力 お願いした『とにかく強い能力!』いったいどんな風に仕上がっているのか。

ペリペリと封筒を開ける、そこに書いてあった文字は

「え?」

そこには同じく機械のフォントで

 

『拍手すると星が爆発する能力』


と書かれていた。

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