ログ3

 頭に鳴り響く耳障りな音。もう少し寝かせてくれ、リックは無意識に愚痴をこぼす。それが燃料残量の警告音だと気がつくまで、2秒とはかからなかった。


 慌てて状況を確認しようとして動くと、頭部に少しの痛みを感じる、が、他には異常はない。即座にチェックコマンドを走らせる。幾つかのセンサーは機能していないものの、機体自体には問題はなさそうだ。それよりも深刻なのは燃料残量だった。


 アサルトライフルを構え、周囲にスキャンをかける。ティム機ほどの精度ではないにしろ今は情報が欲しかった。しかし、期待とは裏腹に、ラル機を含め全機ロストの文字がアイスクリーンに出るだけで、現在地を特定する情報はえられない。


 メインカメラをナイトビジョンに切り替え辺りを確認する。ぐらつく足元は、何かしらの残骸が敷き詰められたように広がっている。警戒しつつ周囲を見渡す、どこまでも続く暗闇の先に微かな光が確認できる。最大望遠で見える僅かな光、それを頼りに残骸を踏みしめ、ぎこちない足取りで進む。


 近づくに連れ、想像していなかった光の正体にリックの警戒心は高まっていた。出口だと予想していたが、近づいた光の正体は見上げても先が見えない、天井に届くほど積み上がった鉄屑や配線の山だった。登ることを試みるが足場は悪く到底無理だ、第一この先がどうなっているのか、残りの機動時間を考えると躊躇ちゅうちょしてしまう。


 それでもどこか登れる場所はないか、瓦礫の山の裾野を探索していく。不意に光が強くなる、いやそもそも瓦礫自体が光っているのではない、何か光るものを取り囲む様にそびえ立っているのだ。まるで誘うように空いた空間に、ライフルを構えゆっくりと入っていく。機械の残骸や色とりどりの配線に囲まれて、円筒型のガラスケースが横たわっている。半透明なガラスの中は、何か液体らしきもので満たされていた。


 見たことがない光景にリックは戸惑いを隠せない。すると1段階光が強まりガラスケースから空気が小さく破裂する音が一瞬聞こえて、ガラス容器に満たされて居た液体が徐々に抜けていく。


「なんだこれは」


再び空気の破裂音。そしてガラスケースがスライドして、中のものが上体を起こす。


 けたたましい音と共にアイスクリーンに警告表示が現れる。流れる様にライフルを構え、振り向いたその先に、銃口を向けた片腕のソルが立っている。


「それから……アクセスキー“ジンルイ”から離れて下さい」


高揚のない事務的な声が、リックの耳へと届いた。

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