ログ2

 どこまでも白い天井と壁の通路を、5機のソルが隊列を組み、針の穴も見落とさないほど慎重に進む。ティムのスキャンがアイスクリーンに波紋のように広がる微かな音だけで、怖いくらいの静寂が辺りを支配している。


「ラル隊長。本当にこっちであってるんですか?」

「黙ってて下さい。スキャンに支障が出ます」

「なんだと」

「止めないか。ここがどこだか忘れたのか」


ラルが、エドとティムをそうたしなめたものの、2人が苛立つのも無理はない。この迷宮のような塔を探索しだして8時間余り、当初の予定とは大きく異なり、代わり映えのしない白い通路を延々と探索していくのは、精神的に負担が大きい。


「大丈夫です。もう少しで目標地点ですから」


後方のソルから、高揚のない事務的な声で通信が入る。再び沈黙する部隊。イレギュラーな同行者を最後尾から見つめ、言いしれぬ不安を胸に、リックは昨日の出来事を反芻はんすうしていた。




 ブリーフィングルームにはラル隊の面々に加え、見知らぬ顔が座って居た。


「以上が今回のミッション内容だ」


白い塔の探索及び、先行したエリス隊の捜索が今回の作戦概要だった。


「なんだラル」

「エリス隊の捜索がメインでなく、塔の探索が優先なのはどうしてですか?」


室内に緊張が走る。エリス隊の救助では無く塔の探索がメインだと言うことは、ラル隊が同じ状況に陥った場合は救助が期待できないことを意味していた。おまけにエリス隊はラル隊に並ぶ一級品の特殊部隊だ、そのエリス隊がロストしたとなれば、白い塔の探索は難易度S。曖昧な理由では隊は出せない、ラルはそう言っているのだ。


「私がお話します」


苦虫を噛み締めたような顔のモルグ司令に変わり、離れて座っていたラボからの使者、オスウサギのレインが立ち上がり振り向いた。


「今回発見さてた白い塔には、セントラル攻略のカギになる。その可能性が高いのものがあります」


静かだった空気がざわめく。


 セントラル。敵の本拠地にして最大の兵器生産ラインがある、難攻不落の要塞だ。長年、攻略に苦しめらたそこへの手がかりがあると言うなら、上層部が少々強引な手段を用いても探索したがるのは無理もなかった。




 索敵範囲にレッドマークが現れ、リックの意識は呼び戻される。各機は即座に戦闘態勢をとる。前と後からひとつずつ、徐々に近づいてくるマーク。接触まで残り50m、敵の姿はまだ見えない。残り10m、姿の見えない敵。警戒音と共に前衛のエド、後衛のリックにマークが重なる。が、辺りに敵影はない。各機が見回す中、ついに中央のティムに2つのマークが重なる。


 リックは即座には反応できなかった。辛うじてチャフグレネードを発射するのが精一杯だった。


 唐突に現れた牙状の柱に天地から挟まれ大破するティム機。エドが応戦するも、壁から現れたハサミツキと同形状のアームに持ち上げられ、銃声が虚しく空を撃つ。ラルが出した退避指示に従おうと後退しかけたその時、機体が宙に浮く。いや、浮いたのでは無い、床が消えたのだ。手を伸ばすリック、しかし、なすすべなく3機は底の見えない暗闇に吸い込まれ消えた。

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