第18話
「天草の助言に従って来たけど、どう声をかけようかな。」
最後に話したのは、怒らせてしまったとき。
時間が経ってるわけでもないし、仮に経っていてもそれで解決になっているわけでもない。
その上彼女は学内の有名人。
遠巻きに彼女を眺めている人も多ければ…。
「黒崎さん、応援団頑張ってください!」
「今日は頑張りましょう!」
この機会で、クラスは違ってても声をかけている人も少なくないようだ。
特に応援団はあまり学年クラス関係ないから、ここで話したいのだろうな。
「あ。」
少し離れたところでどう声をかけようか考えていると、私に気づいたのか黒崎さんがこちらを見るが…。
「……。」
「黒崎さん?」
「ごめんなさい、何でもないの。」
まだ怒っていた。
絶対私に気づいたはずなのにガン無視ときた。
まぁしょうがないけど…。
私を差し置いて明らかに下心見えている奴らとの会話を優先されるのは、流石にくるものがあった。
「綾乃。」
「あれ?お姉ちゃん。どうしてここに?」
「競技前だけど綾乃に会いにね。初めての体育祭でしょう?何か不自由とかない?」
「もう…体育祭自体は中学の頃からあったのに。お姉ちゃん、相変わらず過保護だなぁ。それより雪那にも会いに来たんでしょ?」
「さすがに分かっちゃうか。でも今はいいや。忙しいみたいだから。」
「え、でも…。」
今会っても上手く話せる気がしない。
というか何話したらいいのか分からない。
怒っている理由は、なんとなく分かるけど…悪いが私はそのことを謝るつもりはない。
あんな派手な格好…野郎を喜ばせるだけなのに。
「それよりも綾乃。これから競技とか頑張りたいし、モチベーション上げたいんだけど?」
「えぇー…。ここ私のクラスの陣地なのに!みんなに見られるから恥ずかしいよ。」
「いいじゃん。昔から抱き合ってるし。」
「そうだけど…。」
「白状するとね。今は結構プレッシャー感じててさ。」
「あーそうだね。お姉ちゃん、有名人だからみんな期待しちゃうよね。んん、恥ずかしいけどしょうがないなぁ。これが最後にしてね。」
はぁとため息を付きながらも腕を広げてくれる、甘やかしてくれる綾乃は本当に優しい。
それは抱き締めてより分かる。
周りからのプレッシャーが大きいときは、お互いに甘やかし合うのは昔からだけど、今はプレッシャー以外でも頼りたかった。
言葉に出来ない苛立ちと焦燥感を何とかしたかったから。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。その気持ちは当たり前のことだもの。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。無理しない程度に頑張ってね。体育祭もそれ以外も。」
どうやら綾乃には筒抜けだったようだ。
私が黒崎さんに会いに来てこの状態だから分かって当然かもしれないけど。
「黒崎さんに伝えといて。昼頃にまたくるって。」
「分かった。」
怒ってることは明白だけど、ここで諦めるわけには行かない。
綾乃に元気をもらったんだ、少しくらい素直になろう。
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