第9話

「着きました、このマンションです。」


黒崎さんが言った通り遠くはなかったけど、近いと言ってもいいのかは微妙な距離だった。


「やっぱ送って良かったよ。すれ違う人、みんな黒崎さん見てた。」


「別に平気ですのに…。」


確かに慣れてるかもしれない。

それでもあれで解散なんてしたくなかった。


「まぁ私は美少女ですから?みんなが見てくるのは日常茶飯事ですよ。慣れてます。」


「そうだね。客観的にしか思ったことなかったけど、今日わかったよ。元々可愛いけど、今日のワンピース、大人っぽくてすごく似合う。綺麗だ。みんなが見るのは当たり前だろ。」



待ち合わせで鉢合わせたナンパたちでつい意識が逸れたけど、おしゃれしてくれたのだと思う。


しかもそれがよく似合うものだから、少し困るぐらいだった。

私ももっと相応しい格好をすればよかった。


「え…。」


「それに凄く楽しかった。色々アドバイスくれたことはありがたいし、可愛いもの見てるときの黒崎さんもまた新鮮だったし。だから、えっと…。」



包装されたものを手渡す。

実はこっそり、バレないように買っていた。



「今日のお礼というか…。」


「これ、私に…?」


「初デート記念、かな。」


「っ!」



最初は気付かなかった。

オシャレだなぁとしか思わなかったし、ただ楽しいと思った。


色々見ているうちに、私達は仮にも恋人だと気付いた。

いや、この場合自覚させられたというべきかもしれない。周りの視線に。


「こんな味気のないデートでごめん。今日の最後ぐらいちゃんとしたかった。」


「そうですね、確かに味気のないものでした。だけど、許してあげます。次はもっと楽しませて下さいね?」



そういって黒崎さんはマンションの中に入っていく。



「なんだよ、あれ…。」



言葉には棘があった。

でもほんのり赤みのかかった頬を隠すようなあの仕草。


「可愛いって思わないほうがおかしい。」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る