「その日、僕は、声を売った」。インタビュアーに対して人気声優、椿山侘助は語り出す。クリスマスイブの夜、声のセールスマンを名乗る豊年万作に声をかけられた彼。当時はまだ無名で、彼女へのプレゼントを買う金にも困っていた彼は提示された大金と引き換えに自分の声を売ることとしたのだが。そんな不可思議過ぎる話を語り終えた彼は、インタビュアーへ言うのだ。声を失ったはずの自分が今もこうして声を出せている理由を。
声を売った話……ただ語られるだけなら与太話で終わるところを、そうと断じず最後まで語らせる聞き手がいればこそ成立する物語構造、魅力的ですよねぇ。言ってみれば読者の視点を預かる主人公=インタビュアーになるのですが、彼もまた物語を読者に読ませる舞台装置として機能する構造美! これもたまりません。
そして1話から密かに含められてきた伏線が一気に稼働し、描き出すクライマックス、まさに極上のひと言なのです!
ダークな風情とシャープな構成がたまらない一作、ずいとおすすめいたします。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)