最終章 君の幸せを願うから。
注意書き
・この作品はBL作品になります。
・書いてる人がかなりのオタクなので何かに似てるなんて箇所が多々あるかもしれませんが温かい目で見ていただけたらと思います。
・この先暴力表現が入ってくる場合もございます。
・主人公がかなり不憫ですので苦手な方は読むのをお控え下さい。
・実在する建物、歴史とはなんの関係もございません。
・少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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四年後。
あれから時は進み、響が神になった時に一掃された“ナニカ”達はまた活動を始めていた。
一つ問題なのは、響は普通の人よりも歳をとるペースがとても遅いことだった。ほとんど歳を取らないと言ってもいい。少なくても肉体はもうこれ以上老けない事が分かった。
それはきっと神になってしまった時の後遺症なのだろうと言うことだった。
推定ではおそらく千年は生きると考えられている。
後遺症はもう一つ存在する。響の体を歳を取らない分、逆に退行化してしまう期間があるのだ。周期はほぼ一定のペースで、小学校高学年から中学生くらいまで体だけが縮む。普通の人間ならば耐えられない激痛で死んでしまうだろう。響だから痛みも何もなくこの後遺症が遺ってしまったと言えるだろう。とは、干灯と雅の見解だった。
この世界にもう神なんて存在しない。そういう風に響達が世界の形を変えたから。
それでもこの世界は出来るだけ長く、響をこの世に縛り付けたいらしい。
そして響は恐れている。自分だけが取り残される日を。
その日も響はいつものように除霊を行う。
その日はいつも以上に疲れていた。
「まーだ泣いてるの? 響ちゃん」
その時、ミョウの声が聞こえた気がした。今は幻聴でもいいからみんなの声が聞きたい響にとってはありがたい話だった。
「…響でも泣くんだね」
次にチョウの声。あたりを見渡すけど、当たり前だが、誰もいない。
響は寝そべって目元を覆う。
「ワシらの愛し子よ。そんなに悲しむな」
ダイラの声まで聞こえてきて、
「…そんなの、むりだよ…」
響は小さくそう返した。
ああ、今、どうしようもなくみんなにあいたい。シキの声が聞きたい。
疲れてしまった脳はうまく情報を処理してくれない。
枯れることを知らない涙は未だ静かに響の頬を流れていた。
「あはは、響ってば泣き虫になったね」
シキの声がした途端頬に何かが触れた感覚があった。急いで目で確認すると、そこには、五年前と変わらない4人がいた。
「は……し、き? だい、ら、…みょう、ちょう……?」
「うん! そう! 響ちゃんが寂しがり屋になっちゃったからね」
「…俺たちを忘れないでいてくれて嬉しい」
「響はワシらが居ないとのう」
「ただいま、響。大きくなったねぇ? もっと美人さんになってる」
やっぱり信じられない響は何度も瞬きをする。
「ほんっとうに、ほんもの…?」
「えぇ? ほんものだよ〜」
心外だ、と言わんばかりの顔でシキは言った。
響は勢いよくシキに飛びついてもう離さないとばかりに強く抱きしめる。
そしてシキも響を強く強く抱きしめた。
「ねぇ、響」
シキの凜とした声が鼓膜を揺らす。
「5年前の続き、聞いてよ」
それは、あの別れの場で、シキが紡がなかった言葉を指していた。
「うん、何でも聞くよ」
響はシキを抱きしめて離さないまま、シキの言葉に耳を傾けた。
「響がどんな人間でも、神子じゃなくたって、世界中を敵に回しても、神になれなくても、絶対響を大好きになったし、それでも響を愛したよ。何回生まれ変わったって響を愛し続けるし、そばにいるって、約束する」
5年前には出来なかった約束を。
「5年前は出来なかった約束、ワシらの名に置いて約束しよう」
「私も約束する」
「俺も」
4人がそう言った途端、式神の気配は消えた。響はシキから体を離して、4人を見つめる。目の前にいるのは4人の人間。
いや、人間と式神が混じったような気配だった。
「…みんなが嫌いな、人間になっちゃったね…」
響のその言葉に4人は一瞬呆気に取られ、次の瞬間皆、噴き出すように笑い出した。
「あはっ! ははははっ! 響ってば、全然変わってないし、やっぱり面白いね」
シキは腹を抱えて笑っている。
「ど、どうしよ、僕もう大人なんだ。もうダイラの子供になれない」
響は本当に泣きそうな顔をして言った。でもやはりそれは4人をさらに笑わせた。
そしてダイラも少し笑いながらも微笑んで響の頭に優しく手を置いて撫でる。
「何言っとるのじゃ。響が何歳になっても、爺さんになっても、響はワシの子じゃよ」
そう言って細められた目は驚くほどに優しかった。
「そうよ。響ちゃんがいくつになっても私たちはずっとこのままよ」
「…でも、もし響に恋人ができたら」
チョウのそんな何気ない一言に顔を真っ青にしたのはシキだった。
「えっ、え!? 響恋人いるの!?」
「いないよ!?」
「作るの!?」
「つくっあっ、えっと、それは、まだ分かんなくない?」
そう言った響の表情は困惑していた。
そんな2人のやり取りを見ていたダイラ達は笑っていた。
「シキは本当に響が好きじゃのう」
「響も僕のこと好きだよ? ね!」
「うん」
そう言った響の顔は幸せに溢れた笑顔だった。
ふいにシキが落ち着き、響の頬を優しく撫でながら見つめている。響はよく分からずに頭の上に疑問符を並べていた。
「……どうしよう、幸せすぎるなぁ」
そう言ったシキの瞳は潤んでいた。
苦しんだのは響だけじゃない。シキ達も人を信じた時があった。裏切られた時があった。失望した時があった。でも、人が人を信じて愛することは尊く、何より困難で、だからこそ、育まれるものがあるのだと、シキ達は響のお陰で知った。
そして響はシキ達のお陰で知った。
「私たち、ずっと一緒なんだね」
ミョウも泣きそうな顔でチョウと手を繋いで、その手は僅かに震えている。
チョウも涙は流さないも、何かを堪える様に唇を噛み締めながら、それでも目は緩く笑っている。
そんな2人の頭をダイラは優しく撫でた。
「ワシらはこれまでも、これからも、ずっと家族じゃ」
そう言って微笑んだダイラも声が少し震えている。
「僕は怖いよ」
そんな中、頬を撫でるシキの手に自分の手を重ねながら響は不安そうな顔をして呟いた。
「どうして?」
シキはそれに優しく問いかけた。
「こんなに幸せなのが怖い。また失ってしまうのが怖い。本当に僕が幸せになって良いのかな、ちゃんと幸せになれるのかな」
それはとても切実な想いだった。大好きな者達に幸せを願われた響は、幸せの形を知らない。正解を知らない。幸せになれるのかが分からない。響のその想いはシキ達の心を温かくする。
「幸せに正解も間違いもない。僕達の幸せを僕達で作ろう。それに、響は今まで沢山苦しんで、十分頑張ったから、幸せになっても良いんだよ」
優しく肯定して、優しく許しをくれる。今響が一番安心する言葉を、一番安心する温度でくれるのが、いつもシキだった。
「僕は、こんなにも弱い」
「いいよ」
“弱くない”と言われるのが響は嫌だった。
「きっとまだ家族はわからない」
「僕らの形を作っていこう」
いつも輪の外から眺めるだけだった。
「沢山、迷惑も心配もかける、と思う」
「そんなの今更だよ」
一人の夜が嫌いになった。
「僕、千年も生きる化け物になっちゃったよ」
「なら僕達も千年一緒にいるよ」
一人残される日が来るのが怖かった。
「…人でなしでも、いい?」
「響は響だよ」
シキ達と会って人でなしなのが好きになった。
響の瞳からは涙が溢れていた。
枯れることを知らない涙は5年の月日を得て、抱えきれない想いを少しずつ溢すように、響の頬をとめどなく流れた。
「響」
そんな響の涙を拭いながらシキは優しく名前を呼んだ。そして響は顔を上げてシキの瞳を見つめる。
「よく頑張ったね」
響は目を見開いて、次の瞬間破顔して嗚咽を漏らしながら更に涙を流した。
シキはまた響を強く抱きしめる。
「ワシらもちゃんと見ていたぞ。赦したんじゃな。九導らのこと。何より、ちゃんと向き合って話した事がすごいことじゃ」
ダイラも笑いながら泣きじゃくる響の頭を撫でる。
「響ちゃんはかっこいいよ。赦せるってすごいことなんだよ。憐や奏とも、ちゃんとお友達できてるみたいだね」
「……響はすごい。自慢の家族だ」
響は本当はあの日だって怖かったのだ。九導らが改心したとは言えど、染み付いた癖は簡単には治ってくれない。5年経った今でも、震える時もある。
でも赦すことで、受け入れることで、大人になろうとした。
憐と奏とゆっくり大人になると言ったのに、響は頑張りすぎてしまうから。隣で見てくれる家族がいないと、休ませてくれる環境がないと、この心優しい青年は身を粉にして頑張ってしまう。
「響には僕達がいないと駄目だからね。もちろん僕達にも響がいなきゃ」
「うんっ、うん、」
響はしばらく泣きじゃくり続けた。
5人はいつかの日のようにリビングの定位置に座った。
落ち着いてきた頃、疑問だったことを聞いた。
「シキ達はどうして戻ってこれたの?」
「僕達式神は本来、[[rb:主人 > あるじ]]の願いと祈りを聞く者なんだ。響があの時、僕達と共にあり続けたいと願ったから、かな」
照れ臭そうにシキは説明した。
「それでもこんなに時間がかかってしまって、すまなかったのう」
ダイラはそう言って少し申し訳なさそうな顔をした。
「ううん。今こうして居てくれて、これからも居てくれるのが本当に嬉しい」
響は素直に喜んだ。
いつか失ってしまうなんてもう考えない。
大事にしていく方法を考えるのだ。
誰かの代わりや真似なんかじゃなくて、
自分達の家族の形を。
「おかえり、みんな」
これからずっと、例え死が彼らを別つまで、いや、死が彼らを離したとしても、この5人の家族は幸せに溢れているのだろう。
沢山のものを奪われて、取り零してきた少年は、それらをゆっくり拾い集めて、大事に抱きながら、年を重ねる。
幾千もの季節を超えて、ゆっくり、世界と共に、寿命を生きていく。
きっと今日も明日も明後日も、この先ずっと、彼らは笑顔で溢れている。
そうあるように願わずにはいられない。
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