第27話 配信世界での出会い6

「で、準備を進めてる内に不安になってたところ、大手さんから出てきた新人さんが1ヶ月で100万人フォロワーになって、そのお嬢様キャラに動揺しちゃったと……」


「は、はぃ……恥ずかしいですね……今思えば、そんな付け焼き刃で上手くいくはずなくて、自分の信じる道を進めば良かったんですね。ハイルさんのお陰で目が覚めました」


 ロメちゃんは、顔を隠して俯いたと思ったら、遠くを見て考えたあと、わたしに向き直って頭を下げてきた。


「良かったかどうかは始めてからしか分からないよ? でも少なくともロメちゃんには男装の方が合ってると思うから、良かったってわたしも思うよ」


 ロメちゃんからはにかみ笑顔が返ってくる。

 よし、このまま男装路線で行ってくれた方がわたしも嬉しい。

 あれ? でも、そうなると、名前がおかしいかな?


「そういえば、男装路線の時の名前はあるの?」


「はい、血迷う前はそのつもりで準備していたので名前もありますけど……」


 なぜかここに来て名前で答えに詰まるロメちゃん。

 恥ずかしそうに俯いているから、自分で考えた名前だから言いづらいのかも? そこは自信を持って言ってくれたらいいのに。


「自分の今後のために決めた名前でしょ? 笑わないよ?」


「いえ……そうではなくてですね……せっかくお会いしたご縁もありますし、今勢いのあるハイルさんに、お名前決めて頂けないかなって……」


 チラッチラッとこちらを伺ってくるロメちゃん。

 え!? そんな大事なことわたしに相談していいの? というか丸投げしていいの??


「自慢じゃないけど、わたしの名前は安直だよ? 絵画の世界に入り込むから『絵中えのなかハイル』だよ?? 良いの?」


「はい! 良いんです! 分かりやすい方が受け入れられやすいのですよ」


 そこまで言うなら……


「男装系女子キャラ……カッコイイ方が良いよね……やっぱり男装の麗人だから、『段奏だんそうレイジ』で! 段奏で歌がうまそうなイメージ、レイジは情熱がありそうなイメージで」


「うわ! ホントに真っ直ぐな名前! でも、分かりやすいのにカッコイイ!! いい名前ですね」


 バカにされてる? されてないね。大丈夫、気に入ってくれてる。


「あんなに迷ってたのに、なんか行けそうな気がしてきました! ハイルさんが勢いでなんだかイメージが湧いてきました! アバターは用意していたので良いとして、名前のロゴとか新しく作らなきゃ!!」


 ロメちゃん──改めレイジちゃんがやる気に燃えている! 名前のイメージ通りだね。


「レイジちゃんが元気になってくれてわたしも嬉しいよ」


「いえいえこちらこそ本当にありがとうございました! あのままだと多分失敗してました……きっとハイルさんは自分の恩人になる人です!」


「大袈裟だなぁ〜」


「そんな事ないですよ! 単純なんで売れそうな気がしてきてますもん!」


 レイジちゃんが鼻息荒く力説してくれる。

 思い込めたら勢いに乗れるからホントに上手くいくかもね。


「じゃあ、準備の邪魔しちゃ悪いからこの辺で帰るね。いや、最初から、勝手に上がり込んで邪魔しちゃったんだけどね……」


「あはは! そのマイペースさがハイルさんの売りなんでしょうね」


 マイペース。間違いなくわたしはマイペースだよね。リスナーさんにもよく言われる気がする。

 じゃあ、たしかにわたしの強みなのかも。


「レイジちゃんもマイペースに疲れない程度に頑張ってね。あ! 初配信決まったら呼んでね?」


「えっ! 良いんですか!? 最初からそんな大物ゲストアリなんて夢のような初配信じゃないですか!!」


「また大袈裟だよ〜」


「いいえ! その時は是非よろしくお願いします!」


 お願いされるほどのことでもない気がするし、この世界に住んでしまったわたしは配信以外は基本的に暇だしね。

 なので、快く了承して配信に絶対顔を出す約束をして、わたしはレイジちゃんのお部屋を後にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る