第11話 配信の壺5



 これに触れれば最初まで戻ってしまう、それは知っている。大抵はキレ芸に使われるよね。

 でも、わたしがキレても撮れ高になるほどの反応になるとは思えないから、配信長引かせるだけになってつまらないよね。

 いや、でも! 最初に戻されるとは言うけど、あの戻り方は落ちる感じじゃなかったような……落下じゃないなら、実体験して感想を言うのがわたしの役目だよね!


「じゃあ、ちょっと触ってみるね」


 拾われたい落穂「ひゃー!!」

 撒かれたい種「やめてー!!」

 響き渡る鐘「ダメだー!!!!」

 掲げられた三色旗「草」

 耳を塞ぎたくなる橋「草」

 希望の向日葵「あーあ」


 ハンマーを持ち上げそのあぎとに触れた瞬間、呑み込まれるようにしてハンマーが引っ張られた。

 一度上にぐんっと勢い良く引き上げられる加速感を感じた後、ハンマーをレールに引っ掛けたまま滑るように山の下へと引っ張られた。

 落下とは違う安心感のあるスライドレールに沿った下山──モーター付きのジップラインに乗った様な感覚に、気持ちが昂揚する。引きこもりのわたしはジップラインとか乗ったことないけど!

 高鳴る気持ちが身体から溢れ、歓喜として山へと木霊した。


「いやっほぉぉぉぅぅーーーっ!」


 声の尾を引きながら数秒間滑走した後、レールからリリースされて、わたしは開始点へと放り出された。

 ハンマーを地面に叩き付けて身体を止める。

 わたしは堂々とこの地へ帰ってきた。

 そして、わたしは空へ向かって叫んだ。


「めぇぇぇっちゃたのしいぃぃぃーー!!! これジェットコースター乗ってるみたいですっごい気持ちいいよ!! ハマっちゃいそう!!」


 落下した時とは違って、心拍数も130程度までしか上がっていない。気分昂揚による心拍数増加だけだね。


 拾われたい落穂「……ハイルちゃんが楽しいなら良いと思うよ」

 撒かれたい種「さすハイル」

 響き渡る鐘「さすハイル」

 掲げられた三色旗「思ってた反応と違う」

 耳を塞ぎたくなる橋「やっぱりドMなの?」

 希望の向日葵「それマ?」


「この感覚のためにこの山に登るって言うなら納得出来るぐらい良かったよ! 少なくともわたしはやる気出た!」


 拾われたい落穂「ハイルかわいい」

 撒かれたい種「かわいい」

 響き渡る鐘「激情レアハイル」

 掲げられた三色旗「ドMだったわ」

 耳を塞ぎたくなる橋「これはドM」

 希望の向日葵「まじか」


 こんなに昂揚するのも久しぶり。子供の頃に遊園地行ったときぐらい気持ちが昂ってる気がする。

 今ならジップライン乗る前の場所まで一気に戻れる気がする!

 張り切って山登りしよ〜!

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