第2話 配信の世界1
「こんなことってあるぅ?」
ついついそんなことを呟きたくなるのも仕方の無いこと。
確かにわたしは、
でもまさか本当に、バーチャル世界に意識までが入り込んでしまうとは思っていなかった。
これまた健全で一般的な人間なら、バーチャルの世界に入れたら面白いだろうと夢想した経験も1度や2度ではないだろう。
どうやらわたしは、それを実現させてしまったらしい。アバター体になるおまけ付きで。
先程、自分で出した声の感じからすると、いつも配信で出していた女声という名の裏声で固定されたようだ。喉に負担をかけなくて済むのは助かるね。
これは性転換か?って言うと、普通はアバターの素体って内臓まで作らないから、表面の凸凹ぐらいでしか性差が現れないよね。となると実際はそんなに大きく変わらないんじゃないかな? レントゲンとかMRIが撮れたら分かるだろうけど……そもそも性自認もよく分からなかったし、ほとんどがアバターを通してやり取りしているのだから現実の性とかどうでもよくて曖昧になっていたから、無性ならそれはそれで調度いいような。
いや、今はそんなことどうでもいいでしょ! そんなことはお風呂に入った時にでも確認すればいいの。入れるかどうか分からないけど。
それよりももっともっと重要なことがあるんだよ!
この世界がどうなっているか探検に行くことでしょ!!
わたしは『絵中ハイル』なんだから、今まさに配信背景という絵の中にいるんだよ? これを探索して楽しまなきゃわたしじゃないでしょ!!
「やっふぅ〜!!」
歓喜に身を委ねて今の気持ちをそのまま身体で表現してみたら、感嘆の叫びと小躍りからのジャンプという結果になった。誰かに見られてたら恥ずかしいような行動だけど、誰も見てないから大丈夫――
「配信切り忘れてるよ?」
「ふぇっ!?」
どこからともなく聞こえてきた声にビックリして周りを見渡せば、配信素材としての背景に描かれていたモニタが
というかそれ以前に、モニタの向こう側の壁が無いんだけど?!
あるはずの壁の向こう側は、大学の講堂のような階段状に椅子が並んでいて、チラホラと人が座ってこちらを向いていた。殆どの人は椅子に座ったまま寝てるんだけど、2,3人だけジィーっとこちらを見ている。
え? どいうこと? 衆目監視の中わたしは寝てたってこと??
うん、まあ、配信したまま寝たんだから、寝てるところをみんなに見せていたって意味は間違ってないんだけど。
これが「配信が現実になる」ってこと?!
とりあえず終わらせなきゃ!!
「つけっぱなしにしてごめんなさい! 配信終わります!! 今日も見てくれてありがとうございました!! また見てくださいね〜 絵中ハイルは〜いつでも絵の中に入って待ってますよ〜〜〜 バイバ〜イ!! おつハイルです〜〜〜」
多少過剰だけど動揺しててもスラスラと終わりの挨拶が出てくる。日頃の行いの
挨拶しながら頭を下げると、壁の向こう側に大きなカーテンのようなものが降りてくる。
向こう側に回って見てみたいな。
ということで、外に出るべくわたしは配信部屋の扉を開けた。
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