みひろちゃんのワンピース

池面36/2

【短編】8000字弱

 学校一の清純派美少女、みひろちゃんは僕のお隣さんだ。


「うわあぁぁぁぁ! みひろちゃん、夏休みだからって何時まで寝てるんだよぉぉ!!」


 僕はみひろちゃんのご両親がちょうど夏休みいっぱい海外出張になったので、一人で残ることになった彼女の様子を見ておいて欲しいと頼まれていたのだ。


 いつもいつも静かすぎて心配になったから、女の子の部屋に勝手に入っちゃいけないってわかってたんだけど。まさか三日でこんなゴミ屋敷になっているとは想像の範疇をさらに超えてきやがった。


「うぅん……あれ、もっちゃん……おはよ……」


「おはよじゃないよ、もうこんばんわだよ!」


「うーん、おなかすいた……」


「この部屋、お菓子のゴミばっかじゃないか! ちゃんとした食事しないとだめだよ!」


 というわけで、勝手に人の家の台所で、勝手に冷蔵庫を開け、勝手に料理した。そして、勝手に彼女の部屋に再び入り、無理やり起こして食べさせた。


「おいしー」


「うっ!」


 そうだ。超清純派美少女のみひろちゃんはめちゃくちゃかわいい。


 その笑顔が僕のハートにストライクで突き刺さる。


「はうあ!!」


 次に叫んだのはみろちゃんだった。


「ものじ! なんで私の部屋に入ってるのよ!」


「みひろちゃんがちゃんと生活してないからいけないんじゃないか!」


「うぎゃー! 変態! 出てけ!」


 ご飯食べて目が覚めたら、正気に戻ったらしい。


 さっきも言ったけど、みひろちゃんは学校一の清純派美少女だ。


 かわいいのもそうだけど、何よりそのつつましやかな言動が男子にも女子にも超エモく映るみたいなのだ。


 恋愛感情を伴わないものも含めた好きという感情は、おそらく生徒の九割以上がもっているはずだ。


 ただ、これまでのやり取りを見ればわかる通り、それはすべて学校での仮の姿だ。


 いや、親の前でも素直でまじめな理想の娘を演じている。


 その実体は超がつくほどのアニメオタク。


 ご両親の出張に同行しなかったのも、夏休みになってアニメを観まくるためだ。お菓子をつまみながらずーっとず――――――っとアニメばっかり観てる。そして、どこかで気絶したように眠ってる。


 このモードのみひろちゃんはやばい。


 日頃猫をかぶってるから、一人になったときの反動がすごいんだ。


 ちなみに好きなキャラは、男性ならジョジョの空条承太郎で、女性ならガンダムユニコーンのミネバ・ザビだ。あと、刀剣乱舞はどのキャラもいいらしく、とにかく刀に萌えるらしい。


 中学の頃までは一緒に観たりもしてたけど、最近は女の子らしくなったみたいで、部屋に入ると怒られる。昔は「もっちゃん」なんて呼んでくれてかわいかったのに、今は「ものじ」とかちょっと冷たい。


 そしてさらに三日後、栄養状態を見に行った僕は同じ目に遭った。




 ということで僕はロボットをつくった。


 一応僕は高校生ながらロボット研究の世界トップレベルにいる。


 市内に最先端ロボット研究所をもつとんがり山大学があり、小学校の頃から遊びに行ってたら教授と仲良くなって、今の自分になった。


 ちなみに最近開発した、農業用ロボットはもう少し作業速度を向上し、かつ生産コストが落とせれば実用化される予定だ。


 水田の情報をAIで判別し、雑草の根元に針を刺して瞬間的に二千℃以上にして焼き殺す機能と害虫をレーザービームで撃ち落とす機能をもっている。ちなみに人工光合成ができるので天気が続けば燃料はいらない。水田を傷めないように十二本の細い足で荷重を分散させながら歩くのでクモみたいなのだが、田園風景となかなかマッチしてエモい。


 大学の設備を借りれば、人型家事ロボットをつくるのなんてちょろいもんだ。


「みひろちゃん、こいつをおいていくから規則正しい生活をするんだよ」


 汚いスウェット姿で現れたみひろちゃんは、アニメ鑑賞の邪魔をされたせいで恐ろしいほどに不機嫌な顔だった。


 ああ、学校一の美少女のイメージが……


 次の日。


「ものじ!」


 みひろちゃんから怒りの電話がかかってきた。


「超うざいんだけど、どうにかしなさいよ! ブツッ!!」


 まあ、こんなクレームは想定済みだ。


 僕はみひろちゃんちに行くと、ちょちょいとロボットをいじった。人間でいう頭の部分が3Dホログラムになっていて、好きな顔を映し出せるようになっている。


 ということで承太郎の顔にした。


 みひろちゃんは鼻血を出して喜んだ。


 いけないと思いつつその後みひろちゃんの部屋を覗くと、ロボットと腕を組みながらアニメを観ていた。


 次の日。


 ちょっと心配になって覗きに行くと、みひろちゃんはロボットと戦っていた。


 承太郎ならこんなことにはならないと思っていたけど、顔がリゼロのペテルギウス・ロマネコンティになっていた。顔の替え方は教えなかったのに、自力で見つけたみたいだ。これなら容赦なく痛めつけることができる。


「あなた、怠惰デスね」とロボットが言うたびに、みひろちゃんが奇声を上げる。


 しかし、ロボットには自己防衛プログラムが仕込まれているので、いかなる攻撃であろうと完全に防御することができる。


「あ! ものじ! こいついらねぇ! どうにかしろ!!」


「あなた、怠惰デスね」


「うぎゃー!」


「……っていうかさ、みひろちゃん」


「なによ!」


「……臭いよ」


 彼女は夏休みに入って以降、ずっとアニメばかり見て風呂にすら入ってなかった。




 さすがに臭いという評価は、彼女をして心胆を寒からしめるものだったらしい。


 みひろちゃんがお風呂に入っている間、ロボットは洗濯し、僕は着替えを用意した。


 学校一の美少女の入浴を覗いてみたいなんて欲望はないわけではないが、人類の未来を背負う僕がそんなことで人生を棒に振ったりなんてしない。


 どうでもいいことだが、学校の制服って素晴らしいと思う。


 洗濯さえしていれば、身なりがきちんとしていると誰でも思う。


 隣の市には私服登校ができる学校があるけど、あんなところにみひろちゃんが通うことになってたら、絶対美少女が台無しになってるもんな。


 というわけで、僕は勝手にみひろちゃんのタンスから服を取り出した。


「スウェットどこ行ったのよ」


「臭いから洗ったよ」


「く、くさ……!?」


 みひろちゃんは真っ赤になった。


「で、なんでこれなわけ? 動きにくいんだけど」


 僕が用意したのは、清純の象徴ともいえる真っ白なワンピースだった。


 この服は以前、彼女のお母さんが買ってあげたものだ。しかし出不精のみひろちゃんは一回着た切り二度と着なかった。


 清純派美少女にこの組み合わせは百連コンボだ。


 僕の鼻からだばだばと興奮を示す血が流れた。


「家での服装も、それなりにはきちんとしないとだめだよ」


「うるさい!」


「はいはい。じゃあ、食事にしよう」


 昼食はミートソーススパゲッティだ。


 みひろちゃんはさっそくワンピースを赤く汚していた。


「…………」




 客観的に、こんなに甲斐がいしくみひろちゃんのお世話をする僕は彼女のことを好きなんじゃないかって思われるんだろうけど、もちろんそんなことはない。


 仮に僕が彼女を好きで一生懸命口説いて結婚したとしよう。地獄の生活が待っているのはいうまでもない。僕は見てくれの良さに惑わされたりなんてしない。


 ちなみに、学校では九割以上の男子はみひろちゃんのことが好きだ。


 みんな騙されてる。


 いつも笑顔を絶やさず、女友達に囲まれ、上品でやさしい。


 告白はかなりの男がしているが、すべて玉砕。


 汚れなき天使なのだ。


 学校の成績は上の中。


 僕が勉強を教えてるから校内で二番になってもいいはず(一番は常に僕)なのに、いつもわざと間違えて点数を下げてる。できすぎる女には敵ができやすいからだ。


 学校がある間は、アニメは一日一時間で我慢している。


 そのしわ寄せが休日にくる。


 土日はまだいい。こういう夏休みとかになるとマジでやばい。


 彼女のお父さんは僕らが休みの時こそ忙しいから、娘の有り様を知らない。心からよくできた娘だと喜んでいる。


 みひろちゃんのお母さんは裏の顔を知っている。ひと頃は苦労していたようだが、そのうち目線は真実に向かなくなっていた。いつも元気そうなのに、どこか病的なものを感じずにはいられない。


 仕方ないから僕が隣からちょくちょく面倒を見ている。




 というわけで、僕は目標を定めることにした。


 この夏休みの間にみひろちゃんにワンピースを着せて一緒に海に行くんだ。


 キラキラした海を背景に白いワンピースと麦わら帽子の美少女が波と戯れる。


 超絵になる。


 芸術をたしなむ心は大切なのだ。余計な情報を取り除いた、単純に美しいと思えるものを目に焼き付けておくのは人生を豊かにするはずだ。


「みひろちゃん、今日は海に行こうよ」


「はあ?」


 うお、この顔は恐ろしい。


 部屋の奥のテレビには鋼の錬金術師が映されていた。あ、ここはめっちゃいいシーンだ。このタイミングはまずかった。危険なので今日はやめておこう。


 作戦を練る必要がある。


 僕のロボット技術を使えば海まで拉致るなんてたやすいことだが、その後喜んで浜辺で戯れてくれるとは思えない。


 芸術とは心象が反映されてこそなんぼであって、キレかけた表情なんかに価値などない。


 ご機嫌の状態でみひろちゃんを海へ連れて行かなければならない。




 とりあえず日光に当てても消えないほどにがっつり汚されたワンピースは処分せざるを得なかったので(豆知識:トマトやカレーのシミは日光の紫外線によってかなり消えます)、新しい布を買ってきて、ロボットに何パターンか裁縫させた。


 ネット上の情報からAIでデザインさせたが、なかなかエモいものができた。


 あとはみひろちゃんが喜んで海に行きたくなる戦略を考えないとな。


 ロボットを組み上げるときも、きちんと戦略(strategy)を立てる。行き当たり場当たりでつくってもいいものはできないし、失敗したときに問題点を洗い出すのが困難になる。基本中の基本だ。


 まず、みひろちゃんの中で「海に行きたい」という欲求が惹起されない限りうまくいかないだろう。


 僕の知る限り、彼女が海が嫌いなんてことはなかったと思う。単にアニメばっかり観てて出不精だから行きたくないだけだ。


 ということは、海に行くということで何らかのプラスの経験があると期待できれば行きたいという気持ちになるんじゃないかな。AIの機械学習と同じだ。


 しかし、みひろちゃんが海に行って喜びそうなことってあんまりイメージできないな。泳ぐのも、海の家で焼きそばとか食べるのも多分嫌いじゃないだろうけど、優先順位としては高くなさそうだ。


 …………じゃあこうしよう。


 ロボットを通じていくつか仕込んでみよう。


 実験その1。気絶したように眠るみひろちゃんの耳元で波の音を聞かせてみよう。その時の脳波を観測してできるだけα波を維持できるようにしてみた。


 実験その2。みひろちゃんがアニメを観ているとき、一瞬だけ画面にきれいな海の絵を投影してみよう。1/60秒という人間の意識では認識できないレベルの短さだ。これを数秒おきに繰り返す。つまり、サブリミナル効果だ。


 これを一週間繰り返してみたが、僕が海に誘うと相変わらず不機嫌だった。


 実験その3。ロボットを遠隔操作で承太郎の顔にし、そのアニメの声で「みひろ、海へ行くぞ」と言わせてみた。


 みひろちゃんは丁寧にペテルギウス・ロマネコンティの顔に差し替えてから、ロボットに攻撃してきた。


 実験その4。みひろちゃんがお風呂に入るとき、プロジェクションマッピングでお風呂の壁に海を投影した。


 電話がかかってきた。


「ものじ、しつこいわね。どういうつもりよ!」


「いや、少しは外に出ないと不健康かなって。日焼けは気になるかもしれないけど、日光に当たらないとビタミンDが形成されないから、骨が弱くなっちゃうよ」


「まあ、それは知ってるけど」


「だから海に行こうよ」


「やだ!」


「なんで? 一日くらいアニメ観なくても大丈夫でしょ」


「ものじと行って、誰かに見られて付き合ってるとか思われたらどうするのよ!」


「じゃあ、一人で行く?」


「それはもっといや!」


「まあ、確かに。一人で歩いててナンパとかされようものなら、僕の方が殺意を抱いてしまいそうだ」


 この言葉に対する返答はなかった。


「まあ、海はおいといても、クラスの子と一日くらい遊びに出たら? 別に引きこもりでもないんだし」


「…………」


 また返事はなかった。


 こんな時はきっとこうだ。


「ねえ、海に行こうよ。誰にも見つからないようにするから」


「…………うん」




 ロボットは変形して二人乗りの有人ドローンにすることができる。微妙に気まずい空気だから、座席が前後でよかった。


「こんなの空飛ばして大丈夫なの? 免許とかは?」


「本当は航空法違反だけどね。出る前に教授に連絡して、実験で飛ばすって連絡しといた。夏休みはどっかで飛ばすかもって申請してあるから」


「そっか、すごいね……」


 これまでの狂気がすっかりなりを潜めてしまった。あんまり喜んでくれてないのかな。


「窓っていうか……フタっていうか……開けていい?」


「キャノピーのこと? 暑いけどいいの? せっかくエアコン利いてるのに」


 ドローンはそんなに上空を飛ぶわけじゃないし、速度もたいしたことないから、キャノピーを開けてもオープンカーと同じように風を感じられる程度だ。


 ふわりとみひろちゃんの長い髪が風に舞う。


 ああ、これも絵になるのに、スウェットのまま載せちゃったのは失敗だったな。


 前の座席に座るみひろちゃんは、その後は何をしゃべるでもなく見下ろす風景をただただ眺めていた。




 そして一時間後。


 そこはほとんど誰も知らない浜辺だった。誰も知らないから誰も管理しておらず、おかげで海からの漂着物がかなり転がって荒れ放題だった。


 ロボットは、今度はブルドーザーに変形してそれらのゴミをすべて一カ所に集めた。


 その後、波で何度か砂が流されると、とてもきれいな浜になった。


 ちなみにロボットはマイクロ核融合システムを搭載しているので、一日に百ミリリットルほどの水を与えれば動き続けることができる。


 多分ここは遊泳禁止なんだろうけど、どうせ泳ぎに来たんじゃないからいいのだ。


 きれいな海をスウェット姿のみひろちゃんはぼーっと眺めていた。


「来てよかった?」


「ま、まあね……」


 すねたように答えるみひろちゃんはあんまり美しくなかった。


「ねえ、聞いていい?」


「何よ」


「なんで学校でだけはいつもきれいにしているの?」


 女の子にこんな質問するのはよくないんだろうけど、今ならいいかなって。


「みんなの夢を壊したくないからよ」


「へぇ……」


 僕は、その時はその意味するところに何も気づかなかった。


「じゃあさ、このワンピースに着替えてよ」


「は?」


「そのスウェットはこの風景には似合わないよ。夢が壊れちゃう」


 波の音が心地よく、見上げる必要がないくらいまで下りてきた太陽のハレーションが輝く海に、天使が舞い降りた。


 ちょっと恥ずかしがって、麦わら帽子で隠し気味にこっちを見る。


 それはそれでかわいいのだが、この晴れやかな風景にそれはちょっと違う。


 僕はリモコンでロボットに指示を出して柴犬に変形させた。


「わん、わん、わん!」


 駆け寄ってじゃれつこうとする。


「きゃ! ちょっと、こいつ……」


「わん、わん、わん!」


 柴犬はくるくるとみひろちゃんの周りを回ってはしゃいだ。


 そのうちみひろちゃんの表情も和らいで、笑顔が見られるようになった。


「あはははは……あははははは!」


 海は幾千万のきらめきを反射して、それを逆光に受けながら白いワンピースで犬と戯れる少女が濃い青い空に映し出される。


 僕はその芸術に鼻血を流した。


「ねえ、せっかくだから写真撮ろうよ」


「一緒に撮るの? ネットに流したらマジで殺すからね」


「みんなの夢は壊しちゃいけないからね」


 二人で並んだのをロボットが白いレフ板になって撮影した。


 棒立ちで味気ないけど、まあいっか。


「ど、どうせなら……手をつないで撮ろうよ。その方が絵になるし」


 みひろちゃんは芸術を理解できる女の子だった。




「久しぶりにみひろちゃんと遊べてよかったよ」


「そう……」


 帰りのドローンの中ではまたみひろちゃんは無口になってしまった。


 ただ、風に流れる長い髪の向こうの白いワンピースがきれいで、僕はそれで満足することにした。


 みんなの夢を壊さないためか……


 それは大切なことだろうけど、なんでそんなに一生懸命なんだろう。その反動はみひろちゃんにとっても楽なものじゃないだろうに。


 だけどそうだよね。


 美少女がいるとして、その子が夢をぶち壊してくるのかそうでないのかって、好きな人にとっては生きる希望が失われるか保たれるかの大きな分かれ道だよな。


 みひろちゃんは自分の立場がわかってるから、みんなの希望になろうとしているのか。


 頑張ってるんだ、みひろちゃんは。偉いなぁ。


 だけど、そこまでする理由は何なんだろう。


 みひろちゃん、僕の知らないところで夢を壊されるようなことでもあったのかな?




 その夜。


 私はどれだけアニメを見てもどうにも自分を抑えきれなくなって、ロボットに打ち明けることにした。こうしたらAI会話モードになるはずよね。


「みひろさん、どうしましたか?」


「今日はね、ありがとう。あんたがいてくれたおかげですごく助かった」


「それはよかったです」


「ものじと……もっちゃんと久々に遊べてすごく嬉しかった……」


「どうしてこれまでそうしなかったんですか?」


「だって……もっちゃん、男の子なんだなって思ったときから、なんかちょっと一緒にいるのが恥ずかしくなっちゃって」


「そういうできごとがあったんですか?」


「うん。中学生の時、一緒にアニメ観てたらね……隣にいるもっちゃんのにおいが……なんか男の子のにおいだなって……」


「においですか」


「なんかそしたら、自分もにおってるのかなとか思ったら一緒にいられなくなって」


「みひろさんが毎日お風呂に入るようになってからは気にする必要はなくなりましたよ」


「っていうかね、なんか生々しいというか。


 すごくドキドキしちゃって……


 どうしたらいいかわかんなくなって……」


「ものじのにおいでドキドキするのですか?」


「だから……アニメはにおいなんてしないし、そっちの方がいいわけで……もっちゃんが近くに来るとリアルがぐいぐい迫ってくるみたいで……逃げるしかなくって。昔はにおいなんて気にならなかったのに。ってかにおうなんて思ったことなかったし」


「要するにリアルで好きってことですか?」


「好き?」


「統計的にその反応は好きという表現が最も適していると推測されます」


 私は混乱した。


 もっちゃんのことが好き?


 いや、幼馴染みとして好きといえば好きだけど。


 ちっちゃい頃、「もっちゃんと結婚する-」って言ってたのはそうだけど。


 私は急に理解した。


 ずっと変わらないで仲良しと思っていた幼馴染みが、ある日から大人を感じさせるようになってしまった。その違和感に耐えられなくて避けるようになったんだ。


 そして、ずっと変わらないままのアニメの方が居心地よかった。


 だから自分もずっと変わらないままの、みんなに好かれる人でいたいと思うようになった。


 大人になったもっちゃんを好きでいいのか、わからなくなっていたんだ。


「そうかもしれないね。私、もっちゃんのことが好きなんだと思う」


「なんだかすっきりされたようですね」


「うん、聞いてくれてありがとう……」


「それはよかったで……ブツッ!」


「!?」


「みひろちゃん!」


 ロボットの声がもっちゃんの声に変わった。


「結婚しよう!!」


「はあ?」


「一生大切にするよ!」


「てめぇ! 盗聴してやがったのか!」


「え? いや、たまたまロボットと通信しようと思ったら声が聞こえてきて……あれ、なんで僕の部屋に?」


 私はもっちゃんの部屋に上がり込んでボコボコにしてやった。

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