SS 甘く幸せな幸福へ

「あ、起きたの?」


目を覚ませば、そこには愛しい妻がいた。


紫色の瞳が美しく思えた。


「全く、いつまで経っても起きないんだから」


「ん、悪い、ルネの膝が心地良くて」


「これ、結構体勢維持するのもきついのよ?

今度あなたにも体験させてあげましょうか?」


「それは良いな、ルネの可愛い寝顔を覗けるなんて、俺は世界一幸せな枕だ」


「……冗談で言ったのよ」


ルネは顔を赤くして、視線を逸らした。


それが可愛くて、俺は身体を起こすと彼女にキスをした。


最初は軽く。


ルネは驚いていたけど、受け入れてくれた。


次は少し長くキスをする。


次は長く深くキスをする。


「ん、はっ……」


ルネの吐息が可愛くて、さらに深くキスをした。


やがて、顔を離すとルネは顔を真っ赤にして


「馬鹿」


と、はにかむように言った。


「まだ、足りないな」


「そんなの、あなただけじゃないわよ」


ルネは俺の首へ腕を回して、チュッと軽くキスをした。


「続きは夜にしてよ、今は、まだ空が明るすぎるわ」 


「あぁ……そうだな」


早く夜が来れば良い。


今よりもっと、深く、彼女を愛せるように。







「んぁ?」


間抜けな声が漏れた。


それが自分だと気付くと


「あ、目覚めたのね」


身体を起こすと、目の前のソファーにルーネリアが座っていた。


確か俺は、図書室で今流行りだ、なんて言われてる恋愛小説を読んでて……


途中で飽きて、寝たんだっけ。


それにしても、なんつー夢見てんだよ、俺。


最近女遊びも出来てないし、溜まってんのかな?


ぶっちゃけ、ルーネリアの細い足で膝枕なんかされても固くてマトモに寝れそうにないし、百戦練磨の俺がキス程度であそこまで満たされるなんて考えられない。


無駄に甘ったるい小説を読んだ影響だろう。


俺らしくもない。


「何?人の顔を見て」


怪訝そうな顔を浮かべるルーネリアに、ふと


「いや、婚約者が寝てるんだからここは色っぽく膝枕でもしてくれたらなぁって」


「キモい、消えて」


シンプルに罵られた。


ま、現実はそうだよな。


ルーネリアが俺に膝枕なんてありえない。


分かっていたし、仮にされてもあんな気持ち良くなさそうな足ではこっちから願い下げだ。


……全然、残念なんかじゃないんだからな。







それは夢か未来か、今はまだ分からない幻。


だけど、いつか辿り着いた未来で、俺は知る事になるんだ。


あの、甘く幸せな幻の正体に。

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チャラ系クズ公爵子息の年貢の納め時 草田蜜柑 @summervacation

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