終幕 クーゼリオンの年貢の納め時
「あなたは狙われてるのよ、不特定多数の人達に」
ルーネリアの部屋へ招かれた俺はそんな第一声を言われた。
先日、ジョセフィーヌ……正確にはジョゼットか。
その女から採取した唾液から、猛毒反応が出た。
キスしていたら、俺は本当に死んでいたわけだ。
「散々女を弄んだ挙げ句、王族と結婚……それが許せない人は少なくないの。
自業自得ね。
今までは、あなたが公爵家の人間だからって泣き寝入りする人ばかりだった。
でも、結婚という、世間的に見れば幸せのゴールインを掴もうとするあなたを見て、怒りや憎しみは再燃した。
まぁ、婚約なんてしなくてもあなたの今までの行いを考えればいつかは刺されてたでしょうけど」
「……」
「でも、流石にそれは嫌だって頼み込まれて、仕方なく保護する事にしたわけ」
「?頼み込まれた?」
「俺だよ」
部屋へ入って来たのは、エルだった。
「彼とは読書友達なの。
その縁で、あなたの事を助けて欲しいと頼まれたわ。
ついで、痛い目を見せてくれとも言われたわね。
反省するように」
「いっそ、毒飲まされて倒れてくれれば最高だったんですが」
「流石にそれは無理よ、毒の種類によっては飲んだ瞬間即死だもの」
わざわざ俺を守る為にルーネリアは……
「あ、勘違いしないで、私はあなたの事なんて心から嫌いよ。
不誠実な男はクズだもの」
ルーネリアはキモい、と言わんばかりに己の身体を抱く。
「でも、あなたは公爵家の人間よ。
もしも死ねば大きな混乱が生まれるし、その負担は王家にも掛かってくる。
それを見過ごせなかっただけ。
それに、あなたみたいなクズでも友人の友人だもの。
エルが悲しむ顔を見るのは私も辛いわ」
「姫様……」
エルが今まで見せた事もないような、恋する乙女のような表情を浮かべている。
こいつ、ルーネリアの事が好きなのだろうか。
いや、だったら俺を婚約者にしてくれなんて頼むわけないか。
「というわけだから、お前もう浮気禁止な」
「はぁ!?」
「言っただろ、お前は恨まれてんだよ。
折角姫様が守ってくださるんだ、余計な諍いをこれ以上生むな」
「そうね、最初は口火を切ってくれる人を動かすキッカケが欲しくて好き勝手してもらったけど……しばらく大人しくしているべきよ」
「ちょ、ちょっと待てよ!?」
それって、俺はこれからずっと女の事遊べないのか!?
「ま、年貢の納め時だな」
エルが樂しそうに言った。
絶望的な気分になっていると
「安心しなさい」
ルーネリアが言った。
「あなたが誠実である限りは、私が貴方を守るわ。
誰にも傷つけさせない」
そう言い切ったルーネリアの目があまりにも真っ直ぐで、美しく見えて……。
不覚にも格好良いと感じた。
俺が女の子の前で演じるような理想のイケメンなんかよりもずっとずっと。
しばらくなら、他の女の子との遊びなんていらないかもしれない。
そう思った、なんでかは分からないけど。
遠い未来、俺はこの胸に宿る感情の意味を知る事になる。
俺はこの時から、本当の恋というものの意味を、知り始めていたんだ。
Fin
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