第3話 それは騎士でなくて奴隷

ルーネリア姫は活動的な女の子だ。


城で王族教育やパーティに参加する時以外は、町へお忍びで出掛ける事も多い。


もちろん、王族なので護衛はこっそり付いてきている。


俺は彼女に申し出て、付き添う事に成功した。


「なんであなたが付いてくるの?」


「婚約者だからですよ。

近い未来結婚するっていうのにデートの1つもないなんて変でしょう?」


「はぁ、こんな無駄な時間を過ごすぐらいなら可愛い女の子でも口説けば?」


「なら問題はないですね、俺の前には妖精のように可愛らしい女の子がいるので」


「そのセリフ、今まで何回使った?」


「あなたが初めてです」


「嘘こけ」


まぁ、嘘だけど。


曲がりなりにも婚約者がデートを申し出ているのに強く断るのも不自然である。


そう判断したのか、ルーネリア姫は嫌々了承してくれたのだ。


ルーネリア姫は服飾などには興味がないのか、屋台や食事屋ばかりを回っている。


色気より食い気て……それでも姫……それ以前に年頃の女の子なのだろうか。


「あ、姫、あそこの髪飾りなんて結構良いセンスして……」


「いらない、邪魔」


「そういえばドレスも欲しいんじゃないですか?俺、良い仕立て屋知って……」


「城に腐るぐらいあるのにこれ以上いるか」


「それなら部屋に飾る小物なんて……」


「却下」


取り付く島もない。


「……それなら、美味しいケーキ屋知ってるんですが?」


彼女の趣味に合わせて言ってみると


「そう、じゃあ買って来て。

私はそこらの公園のベンチで待ってるから」


「俺はパシリですか!?」


なんてツッコミながらも律儀にテイクアウトしてくる俺、良い男。


「……まさか本当にパシってくるとは思わなかったわ」


自分で頼んだくせに呆れられた。


「愛しい姫の願いを叶えるのは、ナイトとして当然の事ですからね」


「あっそ、じゃあケーキのついでにコーヒーも持ってきて」


「曲がりなりにも俺、公爵家なんですけどねぇ!?」


と言いつつテイクアウト。


めっちゃ白い目の向けられたよ、普通コーヒー専門店でテイクアウトなんてやらないからね?


そしてやっと持って来たと思ったら一口飲んで


「ぬるい、作り直し」


「店内からわざわざ運んで来たら冷めるのも当たり前でしょ!?」


「ならここで作れば良いでしょ、ほら、こんなところにコーヒーメーカーと豆があるわ。

都合良く」


そんなご都合主義があってたまるか!


俺がコーヒー持ってくる間にわざわざ買って来たのかよ!


「早く入れなさいよ、ケーキは鮮度が命よ」


「だったら最初からテイクアウトなんてすな!」


思わず道楽芸人ばりのツッコミをしてしまう。


いかんいかん、俺はイケメン、公爵家のパーフェクトビューティフルジェントルメン……。


そして、女の子の為に律儀にコーヒーを入れる俺、良い男過ぎない?


まぁ、作ったら作ったで3回ほど


「不味い、入れ直し」


と作り直させられたが。


挙げ句、散々こき使われて疲れた俺を見てルーネリア姫は


「ナイトというか、奴隷ね」


お前のせいだろ!


結局この日は、ルーネリア姫の奴隷としてあちこちパシらされるだけで、何ら色気のある展開にはならなかった。

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