第2話 姫様はクズを所望します

第3王女ルーネリア姫は一言で言えば落ちこぼれだった。


王家には王子が1人と、王女が3人いる。


甘いマスクと優秀な政治力で、唯一の男という事もあり跡取りとして期待される王子。


その美貌と聡明さから女性でありながら学者としての一面も持つ第1王女。


愛らしい容姿と心優しい性格により、他国からも複数の縁談を持ち込まれる第2王女。


そして、見た目もそこそこなら特別聡明というわけでもなく、愛嬌の欠片もない第3王女。


俺はどういうわけか、その第3王女の婚約者に選ばれた。


ちなみに、俺にこんな事になるような身に覚えはない。


公爵家という身分上、会話した事がないとは言わない。


でもそれは社交界で一言二言話す程度だったはずだ。


まぁ、俺はイケメンだから、顔で一目惚れでもしたのだろう。


王女とはいえ女の子だ。


イケメンに惚れるのはもはや本能だろう。


それは分かる、だけど流石に婚約は困った。


これまでは複数の女の子に手を出しても遊びの延長、若気の至りと認識されていた。


しかし、婚約するとそれが許されない。


恋人を2人作っても平手打ちを食らう程度が関の山だが、妻のいる男が他所に女を作ればそれは犯罪者に等しい扱いとなる。


それが王族となれば尚更である。


「年貢の納め時だな」


エルが面白そうに言ってきた。


これから俺はルーネリア姫とのお茶会へ向かう。


その最中、エルがやって来たのだ。


「今まで散々遊んで来たんだ。

ルーネリア姫も悪いお方ではないし、この際誠実な愛とやらに目覚めたらどうだ?」


「俺は元々誠実だよ、誰に対しても優しいし愛を求める子にはちゃんと恋人として振る舞っただろ?」


「お前が誠実なら世界中の人間が誠実になるよ。

……まさかだけど、この期に及んで浮気なんてするわけないよね?

流石にお姫様の好意なんて裏切ったら社会的に死ぬよ?」


「馬鹿だな、俺がそんなミスをやらかすわけないだろ」


確かに大きな枷ではある。


だけど、俺の知性があれば浮気の1つや2つ隠すなんて問題ない。


「ちゃんと、バレないようにはするさ」


「お前マジで死ねよ」


友人の厳しい言葉を喰らいながらお茶会へ向かった。とは




「勘違いはしないで、私はあなたの事なんて爪の垢ほどの好意もないわ。

くだらない下心を向けられるのは迷惑よ」


お茶会でルーネリア姫と二人きりになった瞬間の言葉だった。


彼女用に用意した100個ぐらいのセリフも全て台無しである。


「えぇっと、姫は俺に好意を抱いてるから婚約者にしたのでは……」


「まさか、むしろ嫌いよ、あなたみたいな女の敵」


ゴミを見る目を向けられた。


こんな目を向けられるのは初めてではないけど、それを婚約者から向けられるとは思わなかった。


「でも、ゴミみたいな男だからこそ罪悪感も湧かない。

利用しても傷付けても、ボロ雑巾に仕立て上げても自業自得だって嗤える。

あなたを選んだのはその為よ」


「えぇっと、それってつまり俺と婚約したのは……」


「婚約すれば、他の男と婚約しないで済むからよ。

貴族や他国の王族から人気が高いのはマリナ姉様だけど、私だってそれなりの縁談話はあるの。

マリナ姉様は倍率が高いから私で我慢しよう、みたいなクソどもがね」


マリナというのは第2王女の事だ。


「私は他国なんて興味ないし、女は家庭に引っ込んでろ、みたいのつまんない男にも嫁ぎたくないの。

いっその事、私には興味もくれないで外に遊びに行ってくれるぐらい適当な男が都合良かったのよ」


なるほど、ルーネリア姫は本来、結婚自体したくないのだろう。


それで、遊び人で自分に興味を持たない俺との婚約で手を打った、と。


「私はあなたを束縛しないわ。

火遊びも、軽蔑するけど私の目の届かない場所ならお好きに」


「えっと、俺自身には興味ないの?」


「ないわよ」


即答だった。


ん〜、大抵の女の子って、気のない素振りをしてもイケメンを前にすると瞳孔が開くもんなんだけど。


彼女にはそれがなかった。


つまり、心からの言葉という事だった。


俺は本気で、彼女に嫌われている。




お茶会はその言葉通り、お茶を1杯飲むだけでお開きとなった。


しかし、俺はルーネリア姫の事が忘れられなかった。


俺を心から嫌う女の子……そんな子を惚れさせられたら、きっと楽しいだろうな。


「面白い子だな、ルーネリア姫」


俺は彼女に興味が湧いた。


どうやらしばらく、楽しい日々になりそうだった。

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