第6話「勉強しろ」
俺の妹は熱中しやすい性格だ。幼少期から好奇心
四ヶ月前は高校を卒業したこともあり、友人達と大型テーマパークに行ったり、両親と温泉旅館に行ったりしていたらしい。妹達は前もって行先や
そんな妹がタロット占いにハマってから約二ヶ月が過ぎた。これまでの趣味
七月の中旬。仕事を終えて帰宅した俺は冷蔵庫から麦茶を取り出し、夕飯を作るまでの
「だからぁ、再来週から夏休みでしょ? どっか遊び行こうよって話。あれ? 言ってなかったっけ」
「一切聞いてないけど」
「あれ? でも車出してくれるって言ってなかったっけ」
「言ってねぇよ。都合の
俺は
「うーん、強く反論できないなぁ」
そりゃ俺だって夏休みが
「じゃあ有給とってよ」
「
「えぇ〜、いいじゃん。どっか連れてってよ〜」
妹は上半身を左右に振りながらそう言った。これ以上
「つーかお前夏休みの前に期末試験あるだろ。全然勉強してないようだし、ヤバいんじゃないのか?」
妹は俺の言葉に眉を
「ハァ? 勉強なんて
「学生を名乗るなら勉強しろよ」
「大丈夫大丈夫。受験の時だって大して勉強してないし、これまで通り
妹はヘラヘラ笑った。事実、妹は受験期に勉強そっちのけで深夜ラジオにハマっていた人間だ。
「あのなぁ、高校と大学は全然違うから言ってんだよ。いたよ、俺が学生の時もお前みたいなヤツ。そんなヤツらはなぁ、全員
「全員!?」
「お前も同じ道を
「それは――」
俺は妹の言葉を
「それでも勉強しないって言うなら別にいいよ、俺には関係ないし。でも忠告はしたからな。そうか、勉強しないか。あ〜あ、単位が足りなくて泣くお前の未来が目に見えるようだよ」
「そんな
どうやら今の
「おぉ分かってくれたか」
俺は安心した。妹がテスト勉強に専念してくれるなら、この二週間は静かに暮らせそうだ。
「そこまで、言うなら
妹は仮面ライダーが変身する時のようなポーズで
「
話を
「つーか俺の未来視って
未来視とは未来を予知する超能力のことである。
「さっき自分で言ってたじゃん。私が泣く未来が見えるって」
「いやそんな
妹は俺と向かい合うように腰掛け、テーブルにタロットカードを広げ始めた。
「じゃあ今日はカード三枚で
「いや普通に勉強しろよ」
妹はカードをシャッフル&カットし、カードの山から三枚引いて裏向きで置いた。カードは妹から見てVの字になるように並べられている。
「まずは現状のカードね」
妹はそう言いながら中央のカードを
「これはカップの4、逆位置」
妹はカードを人差し指でトントンしながら説明した。
「このカードから読み取れるのは、悩み事とか考え事とか、そんな感じかなぁ」
そして一呼吸置いた
「そのまんまじゃねぇか。占う前から分かってただろ、それは。いいから勉強しろよ」
妹は俺を無視し、向かって右にあるカードを「次は勉強した場合の未来を占いましょう」と言いながら
「正義のカード、正位置。……これは、どう解釈したらいいかしら、えーと」
「『勉強することが正義だ』って言ってんだろ」
「へ?」
妹は一瞬固まった。
「『勉強こそが正義だ』って言ってんだよ」
「ちょっと私より先に解釈しないでよ! なんかもう、そうとしか見えなくなってきちゃったじゃん!」
「お前の信頼するタロットは『勉強するのが正しい道だ』って言ってんだ。するかどうか悩んでねぇでさっさと勉強始めろよ」
「そんなはずないわ! 私が苦しむのが正義だなんてタロットは言わない! タロットは私の味方だもん!」
妹は
「まあ、でも? 次にどんなカードが出ようと、勉強しなくていいと解釈してやればいいだけよ。簡単な話よ」
「あっ、お前
「来い! 皇帝のカード! 私は勉強せずに権力者になる!」
妹は気合いを入れて最後のカードを
「うぎゃあああああ!!」
妹は
「いや、私はまだ
妹はタロットの本を
「えー、逆位置で出た愚者の意味は……前進しない、可能性がない」
「おう、単位の
「……他には、無鉄砲」
「当たってるよ!
「うるさいなぁ! やめてよ! 今頭の中整理してるから!」
妹は
「私……勉強するわ」
妹はどこか悟ったような表情だった。
「そうだな。それが普通なんだけどな」
妹はそそくさとタロットを片付けて、小声で「なんかゴメンね。お騒がせしたね、ゴメンね」とブツブツ謝りながら自分の部屋へ帰っていった。
「これに
つづく
『
どうもこんにちは。今回のテーマは「カップの4」と「正義」の二つです。
次に正義のカードは、公平で厳格な判断が
正義のカードは人の感情に左右されず物事があるべき状態で進むことを示します。よって今回のスプレッドで出た正位置の正義は「勉強すればその努力に見合った成果が得られる」と読むのが理解しやすいリーディングの一つだと思います。まあ、占うまでもない普遍的なことを言ってますよね。しかし細かく解釈すると「棚
では今回はここまで。さようなら、次回をお楽しみに。
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