11. ポーション
一度、集落に戻った。
すでに陽が入ってから少し経つ。
HPは少し回復してきたけど、まだ半分くらいだったので回復しよう。
「おじさん、初心者HPポーションください」
「あいよ」
20本ほど購入。
色は定番の赤い液体だ。
小さなビンに入っている。
1本をその場で飲む。
ポーションの味は若干薬くさいものの甘味があり、不味くはない。
回復量は初心者HPポーションで+150って表示されたので固定っぽい。
「ぷはぁ、ポーション、おいち」
「美味しいの?」
「うん、まぁ甘いから」
「あぁイチゴシロップみたいな?」
「そうそう、そんな感じ」
よくこういうポーションは不味いというのが定番だけど、このゲームはそういえばストレスはなるべく与えないんだっけ。
まぁなるべくであって皆無ではないけど、変なこだわりがあるところもちょくちょく感じる。
飲まないで頭からかぶってもいいらしいけど、べたべたしそうな気がする。
あっでもゲームだからべたべたまで再現していないかもしれない。
部位ダメージで腕だけとかなら、腕に掛ければよさそうだけど、そういうのは難しい気がする。
回復量固定は序盤だと大変役に立つ。
なんせ現状ほぼ全回復する。
しかしHPが1000とかになると、1割ちょいしか回復しないので、お役御免になるわけだ。
5時間で暗くなるので、14時には夜になっていた。
リアルの1日は24時間、ゲーム時間は1日が10時間なので昼夜は毎日4時間ずつずれると思う。
今はそろそろ15時だ。
集落の広場には、誰かが設置した焚火を囲んで休憩している人たちがいる。
[パルナ]>お姉ちゃん。ログインしたよ
[ミスティ]>おぉ今集落に戻ったとこ。こっちこれる?
[パルナ]>分かった。あ、宝箱あった
[パルナ]>中身は銅貨だった。そっちいく
[ミスティ]>待ってるね
個別の会話機能は「個チャット」とか「
このゲームにももちろん搭載されている。
隣にいるなら実際に囁いてもいいけれど、離れているときには機能を使って会話しないと聞こえない。
同様にパーティー、ギルド用チャット機能もある。
ホログラムキーボード入力と思念入力、仮想端末入力がある。
ギルドはまだ使えないけどパーティーは使える。
私たちは一緒に狩りをするので、もちろんパーティーは組んだ状態だ。
でないと経験値の等分とかができなくなってしまう。
同じパーティーでも近くにいないと経験値は加算されない模様。
補助職の関係で直接ダメージを加えていなくても、戦闘に参加していると見なされれば経験値は貰えるらしい。
厳密な定義はよく知らない。
そういうのは高橋さんにおまかせしよう。
「ミスティさん、すみません。魚フライサンド、まだありますか? あれあるのとないので効率が倍近く違うんで、なるたけ欲しいんですけど」
「あぁ、あることはありますよ」
「そうですか!」
「でも今日はまだ釣りをしてないので、昨日の残りですけど」
「残りでも全然いいんで、売ってください」
「はーい。他の人は?」
周りを見ると声を掛けようか迷ってる人がいる。
「すみません。俺も欲しいです。ソロなんで」
「こっちもほしいんだが」
数人集まってくる。
全員でえっと5人かな。
「それじゃあ後25個かな、出せるのは」
「5個ずつですね」
ということで販売をする。
魚フライサンドはなかなかの評判だ。
ちなみに自分用にも5個キープしてある。
ブルースライムの一件でいつ何が必要になるか分からないので。
「また妹ちゃんの釣り竿買うタイミング逃したね」
「そうですなぁ」
「私また見てるだけね」
「はいはい」
こうしてまた桟橋に移動して釣りをする。
「釣りですなぁ」
「釣りですねぇ」
「釣りだねぇ」
三人で並んで釣りをする。
「すみません。俺らも隣いいですか」
「もちろん、どうぞ。みんなで釣りましょう」
「そういってもらえると助かります」
astecさんとべんべんさんだ。
この2人は昨日も一緒に行動していたと思う。
サバ、アジ、アジ、コハダ、アジ、サバ、コハダ。
最初よりサバ、コハダ率が上がっている。
アジは相変わらずよく釣れる。
クサフグ率が下がってきた。
こういうのも熟練度システムの影響なのだろう。
調査するのは難しいが、感覚的にも分かることはある。
「料理道具はちょっと高めなので、朝になったら材料持ち込みで料理してほしいんですけど」
「いいですよ」
「ありがとうございます。なんせ三枚におろすのも難しそうで。そういうの苦手なんです」
「あーそうですよね。私も見様見真似なんですよ」
「そうなんですか、すごいです。値段は通常の販売額で構いませんので」
「まいどありです」
材料の分ちょっと儲けかもしれない。
こうして満天の星空と月夜に照らされながら釣りをした。
現実時間午後6時ごろ。
ゲーム内ではまだ夜だ。
「コーヒーカップの警告出ちゃいました」
「そろそろ夕ご飯ですね」
「では、いったんお開きということで」
ここのメンバーは全員一度落ちることにした。
落ちるというのはログアウトのことだ。
ブーン。
ベッドに横になったまま目が覚める。
夕ご飯はアサリご飯と豆腐の味噌汁。
それから豚肉の薄切り三枚肉の辛みそ炒めだ。
合成肉が主流といっても三枚肉は比較的安い。
大豆の合成肉のほうが健康にいいという人と、合成肉は化学物質で固めてあるので自然のお肉のほうが健康にいいという人の両方がいる。
どっちも正直ちょっと怪しい。
妹とお風呂に入る。
二人で湯船につかる。
このファミリー向けマンションはお風呂がちょっと広い。
「お姉ちゃん、ゲーム楽しいよね」
「うん。ひさびさの当たりだね、今のところ」
「また一緒にやろうね」
「うん。でもほどほどにね。夜は寝ること。寝ないと死んじゃうぞ」
「うん。痛いほど知ってる」
出てきたらさっそく再ログインしよう。
「リンクイン」
朝日で輝く綺麗な海と砂浜に出現した。
東の空、海が広がる向こう側に山々がかすかにあり、その上に太陽がちょうど昇ってくる。
「すごい、きれい」
「うん」
妹としばし、朝日を見つめる。
朝日を見ると毎朝挨拶をしているからか、春香の笑顔を思い出す。
「……春香」
「お姉ちゃん、春香さんのこと」
「まあね、朝日を見るとやっぱり思い出して」
「そうだよね。春香さん天国でなにしてるかな」
「お昼寝だね。間違いない。天国ではぐーたら昼寝するって言ってた」
「あはは」
彼女は睡眠障害があり夜寝付けないため、毎朝必ず私より先に起きていた。
というか今思えばほぼ徹夜だったのだろう。
毎朝、起きると30分以上前にメッセージが来ていたので、朝といえば春香を思い出す。
いつも写真立てに挨拶しているのは、その代替行為だ。
なんとなく彼女を忘れたくなくて、というのか、あの笑顔がもう見れないとは今でも実感が全然湧かない。
チャットアプリに今日にも「おはよう緑」ってコメントがつきそうな気がするのだ。
実は南極とかで生きていないだろうか。
特に春空VRオンラインの開発元であるエーテルスペース社は南極に基地を持っている。
そこに文字通りランキング1位の世界最高性能の量子スーパーコンピューターが設置されていることは有名だ。
現在でも拡張工事が続いていて、年々性能が向上している。
量子コンピューターは極超低温にする必要があり、冷やすなら南極のほうが効率がいい、という小学生が考えそうな理由によるが、実際その通りになっている。
噂があるのだ、エーテルスペース社は南極基地でコールドスリープの研究もしているという。
ちなみに宇宙人の研究をしているという噂もある。
噂が噂に過ぎないかは、フルダイブ機器という未来装置を実現した実績から、完全否定もできない、という嘘みたいな現実がある。
眠れぬ夜の美少女が南極で半永久の眠りについているとか、ちょっと乙女チックだ。
好奇心旺盛な春香なら、実験台第一号になりかねない。
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