2. チュートリ島
その名も「チュートリ島」に降り立った。
正確には「チュートリ島#245」だ。
そうそう一応としてこのゲームは言語別サーバーになっていて、ここは日本語サーバーだ。
ちなみに日本サーバーではない。
AIによる「言語会話テスト」があり、該当言語を一定以上習得しているとみなされないとログインできない。
これはいわゆる肉入りボットと呼ばれる海外のRMT、転売業者などを排除するのに役立つ。
そもそも全会話ログはAIと人間の監視対象になっていて、疑わしい行動をすると警告やBANされるので、現代において業者は絶滅危惧種だった。
インターネット浄化作戦も行われるようになってからもう結構経つ。
違法性の高いサイトを持つのも随分難しくなったそうだ。
クリーンで清浄な世界。
私達の知らないところで、様々な規制が行われているが、人々は認知しつつも知らん顔をしている。
このゲームがアニメ調なのも、そのような単なる選択でなく、仮想世界としての規制回避の為だなんて
明るい色のアニメ調にちょっと暗い影が差してるのも、ひっくり返せば色々なことができそうでワクワクしてしまう。
別に後ろ暗いことがしたいわけではないけど、理不尽な規制があるのも事実だ。
どうやらチュートリ島は一種のID、インスタンスフィールドになっていて、ここは日本語サーバーの245番目ということだろう。
数からみればお値段が高いわりにはかなり流行っていると言えそうだ。
ここは街と呼ぶには小さく家は10軒くらいだけど、ここは広場のようで周りには頭の上に白抜きの名前が浮かんでいる人が立っている。
[武器屋]アンドリュー、[防具屋]エリス、[雑貨屋]マックスというふうにRPGおなじみのNPCといわれる人々が商売をしていた。
同様に青い文字の「めるしぃ」「ビートル」「蒼桜」「スポンジナディア半島」「astec」という人たちが周辺にいる。
みんな種族や性別は異なるのに、お揃いの布の服の上に皮鎧の胸当てみたいなものを装備している。
行動とかはバラバラで、どうやらプレイヤーだ。
さてどうしたものか。
チュートリアルといいつつ特にガイドはない。
ふむ、武器屋のおじさんが"おいでおいで"しているので、素直に従う。
「新人の来訪者さんかい?」
「え、あはいっ!」
「ようこそ、チュートリ島へ。渡ってきたから知ってると思うけど、王都エルベスタンの沖合にある島さ。ちっとばかしスライムと釣りと干物、あとちょっと採取もできるよ」
「あ、はい」
「まずはこのナイフをあげるから島を探検してくるといい。スライムは倒すとスライムゼリーか魔石を落とすから、集めてきたら買い取ってあげる。そうしたら剣なり釣り竿、ツルハシ、携帯錬金窯、携帯料理コンロなんかを買うといいよ」
「なるほど」
「好きなことしていいんだ。まぁ島の武器屋と雑貨屋じゃあたいしたアイテムは売っていないが……しばらく遊んでいきなぁ」
「はいぃ」
「それか、そうだな。島民の仕事を手伝うってのもいいね。荷運び、畑の世話、干物の回収……まあそこそこ仕事もあるから」
「分かりました」
ふむ。何しようかな。探検か、そうだな探検しよう。
ここは島の中心部だ。広場の周りに家が10軒ほど。
すぐそこに標高50mくらいの小高い山が見える。
広くはないけど南側の平地は畑になっている。
おばあさんが2人畑仕事をしているのが見える。
それから干物の乾燥棚があり、鳥よけの網に囲まれていた。
家と畑の周りは防風林なのか、木々が生い茂っていて先は見通せない。
天気は快晴。
気候は春の陽気でまさにゲームのタイトル「春空」という感じになっていた。
空にはカモメが2、3匹か飛んでいる。
はるか遠くの高いところにも何かが飛んでいるのが見える。
あれなんだろう。
「すみません。あの飛んでるのなんですか?」
「ああ、あれな、ワイバーンの群れだよ。遠いから小さいけど本当は5メートルくらいあるんだ」
「へぇ」
わ、ワイバーン。
やっぱりファンタジーなんだ。
さて村を出て林の中の細い道を進む。
歩いてすぐ、海岸に出た。
この辺は白い砂浜だ。
木製の桟橋があって海につながっていた。
少し進むと岩場、つまり潮だまりとかがあるああいう感じになっていた。
カニがいる。
貝なんかもいくつも転がっている。
それからヒトデだ。打ち上げられたのか、干からびていた。
ヒトデを拾う。
▼ヒトデ
アイテムになっている。
それっぽいホログラムが名前を表示していた。
やっぱりこういうところはゲームっぽい。
よく見ると他にも同じ種類のヒトデが10個くらい打ち上がっていたので拾い集める。
こうして最初のアイテムはヒトデになった。
磯のほうへ行く。
浅いところに10cmくらいの大きな巻貝がある。
拾ってみる。
▼サザエ
ああ、これサザエ。
サザエとか生活でほとんど見たことがないので、一瞬何か分からなかった。
都会の家に引きこもっていると、こういうものには馴染みが薄い。
よく海を観察してみると、サザエは結構ある。
ひ、ふ、み、8個かな回収した。
ワカメの千切れたの、天草のような赤い海藻なんかも落ちている。
一応拾っておく。
このゲームは落ちているものはアイテムとして回収できるらしい。
小石を拾ってみる。
▼石ころ
石ころねぇ。石は石だろって感じではある。
でも何か使えそうな気もする。
例えば投石、難しい言い方すれば「
あまり怖いモンスターに接近したくはない。
あと牽制とかいろいろ使えそうだ。
石を拾っては適当な目標物に向かって投げてみる。
石ころは放物線を描いて飛んでいく。
カーン。
お、思ったよりしっかり目標に当たった。
何回か投げてみたところ、思ったよりずっと命中する。
というか構えると、視界の真ん中に青い十字が出て、ターゲットマーカーが表示される。
視線を動かすと一緒についてくる。
今度は走りながら、向こうの岩をターゲットして投げてみる。
普通に命中した。
これはアシストシステムがあるということだろう。
いわゆる「エイムアシスト」と言われる機能だ。
なんだこれ、便利すぎじゃん。
いろいろな方向、距離の岩をターゲットして投げてみるも、次々命中する。
おぉぉ、イージーな気がする。
さて遊んだ遊んだ。
海岸線をずっと歩いていく。
小山のほうへ移動すると海岸は崖になっていて、その上に山がある。
そうしてぐるっと一周した。
周り500mぐらいだろうか。
学校の運動場のトラックが1周200mだ。
小学校とかと同じくらいの広さといえば、いいのだろうか。
武器屋のおじさんの所に戻ってくる。
「えっとヒトデとサザエが」
「見せてごらん」
「はい」
ヒトデとサザエを出す。
「一応買い取ってるよ。ヒトデはパスタにするとうまいんだ」
「へぇ」
ヒトデも食べるんだ。
「全部で5000ルアでいいかい?」
「はい」
この国の通貨はルアというらしい。
トレードウィンドウが出たからちょっとびっくりした。
こういうところはゲームだった。
アイテムとお金を交換する。
「できれば何か買って、還元してほしいんだけど、無理にとはいわんよ」
「はい、ありがとうございます。そうだなぁ釣り竿でも」
武器屋だけど釣り竿も売っていた。
・初心者の釣り竿 500ルア
・普通の釣り竿 5000ルア
さてどうしたものか。
この丁度買える感じ。
えい、や。
「ふ、普通の釣り竿、くっ、ください」
「まいど」
釣り竿をゲットした。
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