3. 釣り体験
釣り竿を購入した私は、いそいそと桟橋に向かい、釣り糸を垂らした。
竿という名前だけど、セットになっていたので全部付きだ。
竿に糸、先端に針と
針には疑似餌の毛むくじゃらがついていて、エビとかに見えるらしい。
そして桟橋から糸を垂らす。
海はぎりぎり底まで見えそうで見えないくらいの深さがある。
水深数メートルくらい。
たまに黒い魚影が泳いでいくのが見える。
桟橋から見える海の向こうには、対岸の街が見える。
王都エルベスタンだ。
距離にして1kmくらいだろうか。
そこまで遠くではない。
水泳が得意なら泳いで渡れそうだ。私には無理だけど。
ここから泳いで渡れば、この狭い島から解放されて、開始前なのにオープンワールドの広い世界を歩き回れるかもしれない。
実際には透明バリアとかがあって、泳いでも途中ではじかれちゃうのが関の山というか様式美というか、そういうのだけど、本当に果てがない真のオープンワールドとかわくわくする。
びくびくびく。
うぉおぉなんだこれ、はじめて体験する。
重いバイブみたいな振動が伝わってくる。
釣り竿をひょいと上にあげて、釣りあげる。
現代風の釣り糸ではないので、リールとかなくて糸が浅くて短いのだ。
「うぉぉおお、お魚ちゃんだあ」
釣れた~釣れた~よぉ。
▼アジ
>釣り図鑑更新[アジ]。
>釣り[アジ]の記録が更新されました。[9]cm。
小さい。小さい一歩だけれど、これは人類にとって大きな一歩なのだ。
フルダイブVRゲームではじめて釣った魚にはそういう意味がある。
最初はアジだったな、と思い出すと思う。
アイテムボックスに放り込む。
ふふ~ん。
次の魚を待つ。
毎日、高速再生で生き急いでるみたいに勉強していたけど、こういうゆっくりすごす時間もいい。
しばし時間が経過。また釣れた。
▼アジ
すごい。ちょっと大きい。
ちゃらーん。
>釣り[アジ]の記録が更新されました。[15]cm。
>釣り熟練度が2になりました。
おぉ釣り熟練度だよ。
なぜか流行ってる熟練度システムがこのゲームでも健在だ。
レベルとか経験値と何が違うのかよく分からないけど、いいんだ。
釣りを再開する。
▼クサフグ
>釣り図鑑更新[クサフグ]。
>釣り[クサフグ]の記録が更新されました。[10]cm。
>釣り熟練度が3になりました。
なるほど? こうやって図鑑に登録されて、最大何センチって書かれてるのね。
そうそうちなみにこのゲームは倍速になったりしない。
時間を早く進めるとかいう超技術は存在していなかったのだ。
ちょっと残念だけど、そういうものだと思えば、まあそういうものだ。
▼イワシ
>釣り図鑑更新[イワシ]。
>釣り[イワシ]の記録が更新されました。[7]cm。
>釣り熟練度が4になりました。
お、イワシ釣れた。ちっさ、イワシちっさ。
引きも弱かった気がする。
こんな感じに、アジ、イワシ、クサフグ、アジ、アジ、またアジ。
順調といえば順調に釣れた。
▼サバ
>釣り図鑑更新[サバ]。
>釣り[サバ]の記録が更新されました。[19]cm。
>釣り熟練度が10になりました。
きたー。サバ。
新魚種。サバちゃん。
これはさすがにスーパーで見たことがある。
アジやイワシもそうだけど、店で売っているのと同じものがこうして釣れるってなんだか感動。
アイテムボックス様様だ。
ちなみにアイテムボックスの容量はほぼ無限大。
大量に詰め込むことができるようになっている。
今のところ重量制限もとくにはない。
このゲームはストレスフリーをうたっていて、なるべく負担になるようなシステムは排除する傾向にあるとか特集記事に書いてあった。
さてサバも釣れたので、いったん戻る。
村では長閑な時間が流れていた。
もうすぐ夕方だ。
干物の乾燥棚では回収作業をはじめるところらしい。
「ちょっとそこの来訪者さん。干物の回収、手伝ってくれませんか?」
「え、私ですか? いいですよ」
「1時間、5000ルアでいいかい?」
「はい」
正直物価が分からない。
でも釣り竿が5000ルアだったことを考えれば、そこそこのお金になる。
こうして私は干物の回収をはじめた。
魚は向きをそろえて干してあるので、それをひょいひょいと箱に重ねていく。
最初は楽だったんだけど、箱が結構重くなってきた。
「いっぱい溜まったら、箱を交換してね」
「あ、はい。わかりました」
そっか、そりゃそうか。
全部重ねたらすごい重さだなと思ったんだよ。
交換するのか。当たり前か。
こうして干物を集めていく。
この辺はサバだ。
私が一生懸命1匹釣りあげたサバが100匹単位で並んでいる。
これだけで結構なお金になりそうだ、などと皮算用しつつ、回収する。
こういうアルバイトも悪くはないかもしれない。
ゲームだしプレイだと思えば。
そしてなにより足が痛くなったりしんどくなったりはしないのがうれしい。
せこせこ回収する。
「はい、終わり。ちょっと早く終わったね。お疲れ様」
「お疲れ様です」
「はい給料。画面出すよ」
「え、画面?」
「はい、トレードウィンドウ。これがこの国では決まりだから」
「へぇ」
なんだか釈然としないがNPCも使いこなすトレードウィンドウ君を確認して給料を受け取る。
再び5000ルアがわが手に。さて次は何を買おう。
と言っても、選択肢はそれほどない。
「はい。ありがとう。これはお土産よ」
>クエスト[[デイリー]干物の回収]をクリアしました。
>報酬として[サバの干物]x1を取得しました。
>報酬として経験値[120]を取得しました。
>[ミスティ]のレベルが[2]に上がりました。おめでとうございます。
ほほぅん。一応システムクエスト扱いなのか。
NPCさんの反応からは経験値とかクエストとか理解してなさそうだけど、勝手にクエストとして処理されるんだろう、たぶん。
「やったぁ」
「ふふ、よろこんでもらえてうれしいわ」
干物屋のお姉さんもニコニコだ。
さてどうしようかな。
また広場に戻ってきた。
雑貨屋さんを見てみる。
・初心者HPポーション 200ルア
・初心者MPポーション 200ルア
・初心者のナイフ 500ルア
・初心者のツルハシ 500ルア
・初心者の採取鎌 500ルア
・初心者の採取斧 500ルア
・初心者携帯料理コンロ 1000ルア
・初心者携帯錬金窯 1000ルア
・空きビン 100ルア
・切ったパン 100ルア
・薄切りハム 100ルア
・ハムサンドイッチ 300ルア
・アジ干しサンドイッチ 500ルア
・ラミダ茶 100ルア
・塩 50ルア
・砂糖 50ルア
・油 50ルア
うーん。
全部買えるけれど、ん? パンが売っている。
そういえばお腹もすいてきた。
「すみませーん。ハムサンドイッチとラミダ茶ください」
「はいよ」
ラミダ茶はオレンジ色のお茶だ。
「ラミダって何ですか?」
「お茶の木の種類だよ。ラミダ茶葉からラミダ茶ができる」
「なるほどぉ」
ちょっと飲んでみる。
ビンに入っていて常温だ。
緑茶と紅茶の中間ぐらいの味だろうか。
砂糖は入っていないが若干フルーティーな風味があって美味しい。
ハムサンドイッチはハムが挟んである薄切りのパンだ。
「うん、こっちのサンドイッチも美味しい」
「そうかい、そりゃよかった」
もぐもぐ。すぐに食べてしまった。
改めてラインナップを観察して、すぐに気が付いた。
「ひょっとして『切ったパン』に『薄切りハム』を挟めばハムサンドイッチに?」
「お嬢さん、するどいね。その通り。サンドイッチだって立派な料理だよ」
「たしかにぃ」
「サンドイッチはそのままできるけど、注意してほしいのは普通の料理には料理コンロが必要な点だね。サンドイッチは挟むだけだから例外なんだ」
「へぇ」
つまり、これが料理のチュートリアルなんだ。
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