神食らいの狼は約束された終焉を避けるために炎の巨人を求める

あかさや

第1部 はじまりの桜花といつか来る終焉

序章 桜花の出逢い

第1話 約束された終焉の日

 天を衝くような巨人がこの世界に存在するなにもかもを焼き尽くしながら進んでいく。それには慈悲はなく、なにもかも平等にその身より放たれる業火によって滅ぼされていくその光景は地獄としか言いようのないモノ。滅びを呼ぶ巨人には悪意はない。あれは、ただそうするために創り出されたモノだ。まっとうにそうあるように動いている。すべてを終わらせる終末装置として。


 これは、幾度となく見てきた光景だ。なにがどうなろうとも、最後は炎の巨人に焼き払われてすべてが終わる。これを観測する私自身も含めて。


 こうなることがわかっていながら、多くの手を尽くしても結局この結末だ。終末装置たる炎の巨人によってすべてを焼き尽くされ、すべてを焼き尽くした巨人はどこかに消えていく。なにもかも平等に焼き払われた世界を残して。


 滅びの炎に埋め尽くされているせいで、自分の身体がいまどうなっているのかもわからない。こうして思考ができていることを考えると、まだ身体は焼き払われていないはずであるが――それもきっと時間の問題だろう。


 ――ああ、どうして。


 地獄としか言いようのない光景なのに、あたりは異様なほど静かだ。たぶん、悲鳴も嘆きも絶叫もできないまま、巨人が放つ炎に焼き尽くされてしまったのだろう。多くが苦しむ間もなく一瞬で焼き払われたというのは、はたしてよかったのかどうか私に判断することはできないが。


 それでも私は炎で埋め尽くされた地獄を進んでいく。誰も残っていないことなんて、わかり切っているのに、そうせざるを得なかった。もしかしたら、私のように焼かれることを免れた人がいるかもしれないから。


 炎に埋め尽くされたここはもはや人が生きられる環境ではないのに、まだどうして私は生きていられるのだろう? 私にこれを最後まで観測する義務があるとも言いたいのだろうか? 私に観測できることなんてたかが知れているのに。


 あたりを埋め尽くす熱は、まだなんとか呼吸ができているらしい私の身体の内部も蹂躙していく。焼かれる痛み。もう長くない。いずれ、身体の内部が燃えて溶けだし、死ぬことになるのは間違いなかった。最期の瞬間まで、この滅びの光景を目にしながら。


 ――いつまで耐えればいい?


 いつまでこの地獄を見ていなければならないのか。すべてを焼き滅ぼす終末装置であるのなら、さっさと私も他と同じように滅ぼしてくれればいいのに。


 そんなことを考えても、それが炎の巨人に伝わることはない。アレはただそうあるだけの終末装置だ。意思も悪意もなく、稼働すればあらゆるすべてを焼き尽くしていくだけ。発射された核弾頭とさして変わらない。


 急に視界が下に落ちる。どうやら、両脚が耐えられなくなったようだ。じゃあ、これもそろそろ終わりだ。最後に残った私を焼き尽くして。なんの変哲もない、いつも通りの結末。なにも変えることができなかった敗北者の末路。私にお似合いだ。ただ観測するだけで、なにも為し得ない無力な無能に相応しい。


 こちらの両脚が崩れて動けなくなっても、巨人はゆっくりと世界を進んでいく。矮小な私のことなど、一切認識していないのは間違いなかった。どこまでも入念に、あらゆるものを焼き尽くしながらどこかへと歩き去っていく。なにもかも滅ぼし尽くした奴がどこに行くのかは私にもわからない。それは、観測者である私も見たことがないから――


 巨人の身体から炎が放たれる。天を衝くような巨人にとって小さなそれは、ただの人でしかない私を一瞬で焼き尽くす充分すぎた。こちらへと向かってくる火球の速度はかなり遅い。それは最期の瞬間まで、私が無力であることを突きつけてくる。どこまでも無慈悲だ。本当に嫌になる――


 どうすれば、この滅びを避けられるのだろうか? 火球がゆっくりとこちらへと向かってくる間もそれを考えていたが、答えなど出るはずもない。


 向かってくる火球がこちらの視界を埋め尽くす。それは、たった一人の無力な無能を滅ぼすには大きすぎた。


 火球は私を呑み込んで――

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