3日目

おいでよ温泉のまち。

 寒さと格闘することはや8時間。

 午前5時に空いたコンビニに駆け込み、食料を補充。滅多に……というか人生初のイクラ入りおにぎり(230円ほど)をぱくつきながら……待つ。


 待つ。待つ。待つ!


 その時は、ついに、訪れた。


 闇が、白み始める。


 朝である。

 その頼もしさ、何と素晴らしきことか!

 偉大なる太陽よ、どうか前に広がる冬を溶かし給え‼


 ラジオはそう祈った。



 その後、冬がぱらついたりしてラジオの心は大いに乱れたものの、午前7時にはそれも止み。

 午前7時半。

 一行は旅経つ。大分は別府市を目指して。



 昨日進めなかった所をどうにか突破しながら同行人は語る。

 山を峠を越え、別府市の方まで行けば気候が変わり冬は積もらないだろうと。仮に冬が積もっていたとしても往く人々によって耕されることで通りやすくなるだろうと。


 ラジオはほう、ほう、と頷いたその時。

 行き足が──止まった。止まってしまったのである。

 場は県道500号である。



 一行、動揺しながら道を引き返し、農業文化公園前という場にて手持ちの地図にほんの少しばかり記載がある道を見つける。

 一行、決断。その道を進み……速水ICという関所を抜け……



 ついに。峠越えを果たしたのである!



 セブンイレブン日出町豊岡店にて厠休憩の後、別府市内へ。

 朝ロッテリアをキメつつ、今後の旅路を練る。

 その時のコーラは、とてもうまかった。


 ラジオが最初に描いた歌、その原案について同行人と会話しつつ、ラジオは別府の下町を巡る。


 ラジオは考える。

 歌に出す地名は可能な限り現実に即した物の方がよい、と。

 そうすれば聞き手は「この歌はでたらめではなく」と思うだろう。

 まあ正確に言うと、単にそういうサーガをラジオが好んでいるの性癖というだけなのだが。

 

 その道中、ラジオは同行人の案内によりパン屋に寄る。

 曰く、大正つ代より続く由緒正しき店であるとか。

 ラジオは同行人の勧めのもと、一個100円ほどの菓子パンを買う。中には美味い餡が程よい塩梅であった。美味い(2回目)。そんなつもりなかったのに気がつけばラジオはパンを胃の中に落とし込んでいた。


 ラジオは更に下町を巡る。

 すると判明するのだが、下町に存在する天狗の名を冠する催事場街、その裏は夜の催す場であった。

 まさに表裏一体ということか。ラジオは思案する。


 そういった店を眺めていると、偶然のも己の名前と数字を組み合わせた名のものがあった。ラジオ、つい微笑を浮かべる。


 ラジオは更に下町を巡る。

 歌に使えそうなクラブを自動写生したり、催事場街の歴史を、温泉を、そこで産出される特殊な資源を、余すことなく自動写生していく。


 そうしているうちに、ラジオは気づく。

 街に設置されている看板の多くが簡易な仕掛けによって吊られていることに。


 同行人に尋ねると、この辺りは皆そうである、という趣旨の回答があった。

 その瞬間──




「さてと。例の甘味処はどこだ?」


 使利つかとし 世覇音よはねは辺りを見渡し、目的の店を探す。別府の町は巨大樹による寒冷化、それに伴う気候変動により大幅な変化を遂げていた。

 まず目に留まるのは、加減を知らない雪によって悉く押しつぶされた建物。そこから死人の手足のように飛び出た様々な材質の柱。そこにトタンでできた吊るし看板が無数にあった。

 表面には光度の高いネオンにてスローガンやら煽り文句やら店名が所狭しと書かれている。

 後に彼が聞いた話では、こうすれば柱が破損しても落ちた看板を回収しまた別の柱に括り付けるだけで復旧工事が終わる。倒壊寸前の建物に直接貼り付けるのは効率が悪い、とのこと。

 彼は目の前に広がる白と鉄さびと人工光を掻き分け、目的地にたどり着いた。

 上がこんなんなので、活動場所は地下である。店名を確認して、フロアに通じるシャッターを音響と共にこじ開け──



 ラジオは幻影より帰還した。

 歌のいち小節を即興で思いついたのだ。

 少しでも長く記憶にとどめたいと、ラジオは同行人にその幻影のことを詳細に語りながら次なる目的地を目指す。



 次なる目的地とは?

 お 待 た せ し ま し た。

 全 俺 待 望 の、温 泉 である!!


 というわけでラジオは湯に浸かっていた。

 時は午前10時。と、いうためか周囲に人はほぼいない。

 貸切、みたいな状態。


AHHH、PHEW~


 ラジオはオッサンのようなため息を絞り出す。それは湯気の中にもやとなって消える。

 とてもミードホール備え付けの風呂では味わえないこの感覚! 車中泊によって固まった五臓六腑が次々と解凍され、もはや言葉にできない快感がラジオを襲う。

 天国は飛行機で2時間の場所にあったのだ。


 唯一の心残りは露天風呂が先日の降雪によって使用できなかったことであった。


 かくして20分ほど温泉を楽しみ、湯上り後のコーヒー牛乳をキメて、ラジオは昼食へと向かうのであった。



 次回に続く!

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