寒い!寒い!寒いッ!さ"・む"・い"!

 ♪なんだこりゃ寒い♪

 …………という歌詞の歌があったなぁ、とラジオは目が覚めた。

 時は11時、場は大分県宇佐市内のコンビニ駐車場。跳ねのける布団は、ない。


 寒さでラジオは起きたわけではない。

 後ろの空間で動きが、具体的には照明に動きがあった気がしたから、目が覚めたのだ。振り返る。


Σ(゚Д゚;)CLANGガーン!!


 唖然としながらスマホで検索すると。

 真後ろの店の営業時間は5:00~23:00、とあった。

 即ち、あと6時間は文明の恩恵を受けられないのである。



 ラジオは思い返す。

 福岡から大分への道……正確には宇佐と大分を結ぶ安全な国道は基本3つある、と同行人は言う。大分への撤退を決めた時、ラジオ一行は当然最もやりやすい道を目指し始めた。

 考えることは皆同じ。そして人が集まれば事故は起こりやすい。というわけで見事なスリップをキメて横転した車を見ながら、渋滞を抜け、さぁこれから山越え峠越えという時であった。


 ラジオは気づく。先程からすれ違う車、その数がまばらであることに。

 やがて一行が目にしたのは「通行止め」という文字であった。


 それを3回、繰り返した。

 時刻は7時頃。その時には大分への道は全て通行止めとなったことを知り、一先ず最寄りのコンビニ駐車場へ車を止める。


 それから1時間して、一行は再び動き出す。

 同じ駐車場に止まっていたトラックたちの多くが姿を消していたからだ。

 これは、もしかして……? あるんじゃないの通行止めされてないとこ⁉


 あった。

 一行、希望を胸(頭)に車を走らせる。


 ダメでした。

 とある坂道で、ついにそれが牙(雪)を剥いたのだ。

 タイヤが異音を立てる。前に進めず、視界はやや左右にぶれる。

 スピードをもっと出せば突破できるかも? いいやその先でスリップした場合事故って死んでしまうかも。


 こうしてラジオと同行人は車中泊の覚悟を決めたのだった。

 ちなみに周囲のホテルは全て満員であった(ラブホ等も含め)。


 最初は進めなくなった地点のすぐそばにある、とある神社の(名前を覚えておらず、そもそも寺だったかもしれない)道端で夜を明かそうとしたが、あまりにも危険なので道を戻ることにした。

 周囲に何もないためだ。一応民家が一軒だけあったが、助けを求めるのはリスキーであるとラジオと同行人は判断した。


 時速20キロ程で車を走らせる。

 幸い周囲には誰もいないので、このような低速でも文句が出ることはない。安全がモットーである。



 そうしては冒頭へと戻るのだ。


 普段は決して買わないであろう200円もする握り飯を食べつくす寸前で、ラジオは気づく。

 食べ終えたら──すること、何もないやんけ。

 そうすると、人類最大の敵がラジオを襲うことになる。

 

 暇である。


 こうしてラジオは頑張って眠りにつこうとして、も冒頭へと戻るのだ。


 悪いことは重なる。この時は火曜日、当然のように次は水曜日である。

 付近のタイヤ屋は軒並み水曜日が定休日であった。

 

 これを執筆している時、敢えて暖房を消すことで当時の状況を再現しようと試みたが(節電も兼ねて)、やはりさむさはつらい!


 寒い、がさむい、となってしまうほど思考が鈍る寒い!

 手足の感覚が凍り付き、震えが止まらない寒い!

 頭の中には「さむい」しか浮かばなさむいさむいさ・む・いー!


 ……というようにラジオの思考は壊れさむいー! ってしまったさむいー! のであるさ"む"い"ー。


 ところでこんな風に壊れたラジオを哀れんだのか、神々は気まぐれに1つの現象をプレゼントした。


 夜空である。


 それに気づいた時、ラジオの思考は一気にクリアーとなり、IQがほんの僅かに増加した………かもしれない。


 都会に住まうラジオにとって夜空はである。

 しかし、ここに広がるのは探さなくてもよい。ただそこののだから。


 午前の伐株山きりかぶさん以上にラジオは感動した。


 ラジオにとって人生初の夜空であったから。


 なのでラジオはつい、地べたに座り、独自の深淵暗愚宇宙の神話を描こうとし寒い寒い寒い!


 ラジオは忘れていた。外の気温はマイナス4度。体感温度はマイナス14。ラジオにとって人生初の極寒であったのだ。



 こんなしょーもない思考の中、徐々に夜は明ける。


 ──出発の時である。


 次回に続く!






 ちなみに、同行人はラジオの阿呆な瞳から見ると至って普通であった。

 曰く、割と(この寒さは)慣れているとのこと。

 実際慣れとはすごいもので車中泊開始時点でのラジオは馬鹿みたいに震えていたのだが午前3時にもなると、それなりに慣れてしまったのである。

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